第16話

  夜、珍しく鳥が鳴いていた。ほうほうっ。

 フクロウだろうか。

 静かな庭に、その鳴き声は消えていった。

 右手で目を覆い、こめかみもみほぐす。

 ぐりぐり。

 なんてこった。

 ようやく聖女オーロラの置かれている状況がはっきりしてきた。それと同時に漠然とした不安が押し寄せる。


 聖女としての力がないにも関わらず、先王の贔屓により聖女認定され、類い稀な美貌のおかげで次期国王の王子の覚えもいい。

 これは恨まれる憎まれるのも無理はない。

 権力を欲する者、王妃の座を狙うもの、それだけでなく宮殿の使用人からしたって、聖女でもない若い女が王族並みの特別待遇を受けているのを面白くないと考える人間は多いはずだ。

 まさしくこの聖女の座は針の筵だ。


 だがオーロラは聖女の座に胡坐をかいて座っていたのだろうか。

 オーロラの身体になってから日が浅く、記憶も断片的なものばかりだが、それでも己の私欲の為に聖女の地位を利用するような野心は感じられない。

 感じるのは誰よりも素直な清らかさとやり切れない悲しみだった。

 日常生活に困らない記憶と、王子への淡い思いを残して彼女はどこへ消えてしまったのだろうか。

 

 とりあえず今の俺にできることは何よりも目立たぬこと。騒ぎを起こさぬことだ。

 これ以上オーロラの地位を脅かしてはならない。

 俺がこの世界でオーロラとして生きるにはそれしかない。

 そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る