第3話

 最初に目が覚めた時。

 

 長い眠りから覚めたからだろう。目覚めスッキリ、お日様の光を今すぐにでもいっぱい浴びたいような気分ではなかった。

 ひどく気だるく、起き上がるのにも難儀するぐらいに。

 体中が漬物石にでもなったみたいだ。

 

 体がだるい。

 腕を額に乗せる。

 あれ。

 手や肌の感触が違う。肌が妙に柔らかい。気のせいか。

 それにもっと手は骨張っていたような・・・。

 はっとして、両手を見る。

 白魚のような美しい手であった。 


 真っ白くきめ細やかな肌に、小さな手のひら。

 これは・・・・俺の手ではない。

 仏師の手ではない。

 タコやまめもなく、傷の後もない。ゴツゴツした感じもない。 

 それにもっと日に焼けていた。

 この手では自在にノミを操ることはできまい。

 一体何がどうなってしまったのだ。


 視界の端で何かがチラチラと光に反射し揺れている。

 そっと手で掴むと、それは金色に輝いていた。金箔を直線状に切った截金みたいな細長い糸のよう。

 これって。

 え、まさか髪?

 髪は金色でそして腰まで届くように長い。

 俺の髪じゃない。黒だ。俺の髪は黒だ!長さだって短髪で短い。


 まさか。


 夢の断片を思い出し、恐る恐る姿見に目をやる。

 そこには青ざめた表情の若い娘がこちらを見ていた。

 なぜ俺が女の体になっているんだ。どうなっているんだ。

 あれは、夢ではなかったのか。


 俺は死んだ。そして極楽浄土に往生するかと思いきや、なぜか見知らぬ場所で女人の姿になっている。

 なんで、なんで、なんで?

 死んだ人間が女の体になるなんて話聞いたことがないぞ。


 それともここは地獄か。禁欲を課していたので、鬼が誘惑し惑わせようとしているのか。

 ありえるような、あり得ないような・・・。

 訳が分からん。頭が痛くなってきた。おまけにずっと寝ていたせいか、床ずれのように腰が痛い。

 痛い・・・?

 痛みを感じるということは、俺は生きてるということか。

 死んだ俺が。

 極楽浄土でもなく、地獄でも、奈良でもなく、見知らぬ場所で。

 コンコン。

 その時、部屋の扉をノックする音がした。



 「聖女様?!」


 ノックの音と共に部屋に戻ってきたのはあの藤色の髪と瞳をしたあの娘だった。起き上がっている俺の姿を見ると手に持っていた手ぬぐいを放り投げてこちらに駆け寄った。


「目を覚まされたのですね!!!あぁよかった・・・」


「ここはどこ?」というよりも早く「あっお医者様呼んでこないと!!」

 え、ちょっと待ってくれ。


「あの・・・ここは・・・」


 だが俺の蚊の鳴くような声は藤色の少女の声にかき消され届かなかった。


「では!!!すぐにお医者様呼んで参りますので、少しだけお待ちください」


 慌ただしい足音だけ残して行ってしまった。聞きたいことがあったんだけど。 


 ここはどこ。わたしはだあれ??

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