29.凛。麻帆。

 夕食は定番のカレーを避けてあえてのシチューだった。バーベキューでたらふくたべた女子たちは胃袋を拡大させてシチューをまちうけていた。コトコトクツクツ煮込んだじゃがいもと肉、シーフードたっぷりのクリームスープにトッピングでチーズ。


 この上ないご馳走だ。食べざかりの女子たちはこれでもかと腹に詰め込んだ。眠気が襲ってきたところでお楽しみの天体観測。村上先生は星に詳しくない。麻帆がオリオン座や夏の大三角をみつけては、喜んで解説していた。


「織姫と彦星はどれ?」凛が尋ねる。


「ベガとアルタイルね」麻帆がすかさず星の方へ望遠鏡をむける。


 周囲はもう暗く山の中には街のネオンや夜景の明かりは一つもなく、ただただ美しい星空が広がっていた。


「ロマンチックですよね先生」雄がつぶやき、村上先生も頷いた。


「村上先生は旦那さんいないんですか?」


「私は独身よ」


「じゃあまだ恋できますね」雄はそう言って綾瀬くんのことを空想しだした。麻帆が


「村上先生は追う恋と追われる恋、どちらがいいですか?」ときりだした。


「恋なんて何年もしてないわ」村上先生は正直にいう。 


「私は絶対追われる恋だな。追いかけても追いつけない高嶺の花に私はなりたい」


「でも麻帆は男子の目を気にせずプレーしているときの方が魅力的よ」村上先生はいう。麻帆は


「村上先生の美の秘訣はなんですか?」と師を仰いだ。


「何も。これといってないわ」


「またまたあ。村上先生って綺麗ですよ。立ち振る舞いとか姿勢とか。熱心すぎてちょっと怖いけど」


「ありがとう。中学生に褒められると私もまだまだ若い気がするわ」


 星空を見上げていると自然と恋をしたくなる。奏歩がトイレへと席を外した。


 麻帆がそのタイミングで奏歩を分析する。


「思ったんだけど、奏歩を例えるならウミヘビ座だね。ぼんやりあまり明るくないこの星をみて。」


 凛が望遠鏡を覗き込んだ。確かにパッとしない星がそこで輝いていた。


「アルファルド。ウミヘビの心臓よ。別名孤独な星とも言われる。」


「あは。言われてみれば、奏歩はヘビみたいに走ります。」


「いくらオヤジさんが元選手だからといってあの入れ込みようはないわよね。しんどくならないのかしら。」


「でも信子は、奏歩を応援したくなるって言いました。」


「私も。1つのことに夢中になるって奏歩みたいなことを言うんだと思う。1日のルーティンのほとんどがバスケよね。それが楽しいしそれで満足してるから続くのよ。私も何か、夢中を見つけたくなる。」


「麻帆さんまで。奏歩っぽいな。」


「凛は人をよくみてるわよね。」


「はい。」


「人を見てるけど、自分は空っぽだと思ったことない? 人に合わせて人を喜ばせて。でも、本当になりたい自分はどこなの?」


「麻帆さん、鋭いこときくなあ。」凛はタジタジとなる。


「あたしは今の自分が好きですよ。」


「そっかあ。意地悪凛ちゃん。ね。」


「まあ、そうですね。」



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