27.キャンプ。合宿。
「合宿がしたいです」
雄が代表して村上先生に告げに来た時、村上先生は一瞬バスケ合宿かと思って耳を疑った。そんな村上先生の理想の形とはいかなかったが先生はキャンプにいく彼女らを引率することに同意した。それに少し楽しみだとも思っていた。
キャンプは県内の北側の山へゆったりと登ることになった。有名なキャンプ場に川もある。バスで乗り合わせてもいいのだが、あえて歩いてハイキングもしようという計画だった。
標高はそこまで高くないから寒すぎず丁度良い避暑になる。
「バスケを忘れてワンダーフォーゲル部になろう。」凛はイキイキしていた。
「ワンダーフォーゲルって一体何?」奏歩が問い詰める。
「登山とか川遊びとかつまりは大自然と触れ合おうっていう北海道の大学によくある部活よ。」
「なんかだっさい。」
「うっさいわね。奏歩のだっさいだっさいくだらないってのは自分もやってみたいって意味なんでしょ。」
「違うわよ。」
「違わない。」
「ちが。」
「じゃあ他に楽しめる案を考えなさいよ。」
「日本バスケJBリーグをみにいく。」
「それこそつまんないわよ。独りでいけば。」
「まあまあ。」間にはいってなだめる信子。
「夏休みくらいは思いっきり青春しようよ、ね、奏歩ちゃん。」
「別にいいけど、それより信子また背のびた?」
「そうなの。多分毎日少しずつ伸びてる。今169ってとこかな。」
「わけてほしい。」
「ちーび、こびと。」
凛のちゃちゃに奏歩が怒る。
「なにい。」
行きの電車のなかではずっとこんな感じで信子はこれが、精一杯の2人のコミュニケーションなんだと諦めた。キャンプ場は晴れていた。けして軽くはない荷物を背負って一同は緩やかに上る斜面を歌いながら歩いた。
「丘をこえーゆこうよー。」
信子はしかし凛が人一倍奏歩を観察していることに気づいていた。嫌いだからつい気にしてしまうのだろう。好き嫌いは紙一重なんだ。
凛の日記には奏歩の悪口ばかり書かれていることに村上先生も気づいていた。しかし両想いとはいかず奏歩の日記には凛は登場しない。まだ凛は奏歩に目をつけられるほどには至らないのが現状だ。
「焚き火のまき、持ってきて。」
凛が奏歩に頼んだ。奏歩は断った。
「いやだ、重いし腰痛める。それになんで私ばかりこき使うのさ。」
「だって雄は料理、麻帆さんは先生と話、信子はテントはりしてんじゃん。焚き火は私たちの仕事よ。奏歩、はたらけ。」
「イヤだそっちこそ働け。」
「あんたはバスケ以外全く率先しないのね。」
「そうだよ。やる気がおきない。」
「だから成績悪いのよ、もうちょい頭を使いな?」
なんやかんやで凛は奏歩を働かせた。昼ごはんは、凛のおこした火で肉たっぷりのバーベキューだ。凛は奏歩と奪い合いをしながらだが、めいいっぱい食べることができた。
今はきつい走り込みのために体重を減らそうとしなくて良かった。満腹になると自然が一層身近に思えた。セミの鳴き声、川のせせらぎ、大地をしっかりと踏みしめている実感がした。そして森林浴、多分マイナスイオンを沢山浴びているはず。
凛は気分が良かった。川には夕食後のデザートスイカが冷やしてある。ああ、思う存分夏休み! 凛の求めていたものはこれだった。ハンモックに横になり惰眠をむさぼる。優雅だった。
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