14.麻帆。ツーメン。

 次の日から。女子バスケの雰囲気はすこーし変わった。ちょっと元気を無くした凛と反対に目に輝きが戻った奏歩。雄はおどけっぷりに遠慮が無くなり信子は喋るようになった。麻帆はと言えば髪の毛を気にするなら切りなさいと村上先生からのコメントに書かれていたようでお団子頭のヘアスタイルになってやってきた。 


 三年はもう引退。最後の試合があと二週間後だったが、そこまで勝ちにこだわっていないようで相変わらず練習もサボり固まっておしゃべりを楽しんでいる。村上先生はそんな三年には何も言わなかった。贔屓癖があるんじゃないかと凛は思った。


「今日はツーメン。パス練習をやります」


 1キロを走り終えた後先生はいった。


「センターラインとサイドラインギリギリを走るのよ。パスは3回。最後にはレイアップシュート。リバウンドを拾ったら逆方向で同じことの繰り返し。なんせ5人しかいないから休む間は無いのよ。でもシャトルランよりは楽しいでしょう」


 いざ、練習を始めてみるとなかなかうまくパスが回らない。走りながらだから難しいのだ。パスミスが目立ち、レイアップも入らない。練習はガタガタだった。


「駄目ね。男子のやり方をみてみなさい。勉強になるはずよ」


 言われて男子を見学する。どうやら、パスしたいと思った瞬間に相手が走っている位置の一歩先へボールを投げると時間差でちょうどよくパスが渡るらしいと凛は気づいた。その事を雄に伝える。雄はなるほど顔になり言われた通りやってみたところ、凛と雄ペアはツーメンがうまくいった。


 レイアップシュートはボールを投げるのではなく置いてくる感じ。それも凛が雄にだけ伝えて、結果二人はシュートの成功率が格段に上がった。


「コラコラ二人。コツをつかんだならそれを全員で共有しなさい」


 村上先生が二人だけの異変に感づきたしなめた。雄は凛が発見したコツを上手に脚色して皆に披露した。一歩先へ影分身があると考えてパスを送る。レイアップは手首を柔らかくして阿波おどりの手みたいに置いてくる。どうやらうまく伝わったようでそれまでハチャメチャだったツーメンが一応それっぽい形になり始めた。男子バスケの顧問伊東先生が声をかけてきた。


「なかなか上達が早いなあ」


 それはお世辞ではなく確かに実感を伴っていた。村上先生は伊東先生と話し込んで男子のほうへ行ってしまったが凛たちはシュートが面白いように入るのでサボったりはしなかった。 


 ペアを1人ずつ変えツーメンを続ける。雄と凛ペアが一番しっくりきていた。その次は麻帆と信子ペア。その次が雄と奏歩ペアだ。相性の良し悪しが出始めた。走るペースやボールの滞空時間、レイアップのうまさでタイミングがほんの少しずつずれるからだ。


 奏歩のパスは鋭く滞空時間が短い。信子のパスは弧を描きゆっくりと届く。それに走る側が合わせてしまうとステップが乱れる。だからちょうどいい塩梅にペースが合う者同士でなければうまくいかない。


 村上先生が戻ってきた。男子バスケ部員は人数が多い。実力によってグループ分けされていて、そのCグループと女子とで合同練習をやろうという決定だった。麻帆の表情が変わった。全力で女の子モードになったのだ


 男子のCチームは、スタメンになれずレギュラーの座に落ちたBチームよりもさらに残念で補欠にも入れなかった者達だった。男子とはいえ主に一年生。まだあどけなさが残る少年たちで身長も低く声変わりもしていない。


 だが麻帆はものすごく態度を変えた。女の子らしさが全開になり走る時に腕が妙に横へとピョコピョコでている。村上先生はまったくもうと呆れ顔で、麻帆! と呼んだ。練習はツーメンからスリーメンへ変更。だが麻帆は男子と組ませない。凛、奏歩、麻帆トリオで固定された。麻帆は不満そうにしていたがピョコピョコが直らない。走る時に必死な表情になりたくないからかスピードが落ちている。


「麻帆さん! 全速力!」


 みかねた奏歩が初めて先輩に指示を出した。わざとものすごく鋭いボールを投げる。麻帆はそれに追いつけず凛と奏歩と麻帆トリオは相性が最悪になった。こぼれたボールを何度も取りに行く麻帆。男子たちは呆れている。


「麻帆、ちょっと来て」


 村上先生が呼んだ。


「麻帆、走れない訳じゃないでしょ?何度も失敗するほうがカッコ悪いのよ。ほら男バスのレギュラーたちがみてる。顔なんて見えないけどミスって怒られてるのは丸見えよ。本気でやりなさい。あなたはかなりセンスあるんだから。本気をだしなさい」


 確かに、ミスを連発する麻帆はカッコ悪かった。そうと気づくと麻帆は逆に限界までダッシュし始めた。奏歩のパスがうまく通る。綺麗なレイアップシュート。決まった。男子たちはおお、と僅かにどよめいた。バスケが上手い女子はモテる。男子たちの士気が上がった。女子にいいところを見せたい。そんな下心が沸き上がってスリーメンは盛り上がりをみせた。




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