11.凛。シャトルラン。

 凛はどうしようか迷った挙げ句、日記にある程度正直な愚痴を書こうと決めた。村上先生が奏歩を贔屓しているのは明白でそこにどうしても不満があった。練習メニューや奏歩のプレーについては書いたって許されるだろうと踏んでの事だった。


「先生へ。奏歩のプレーについてです。最初の練習のミニゲームで見た通り、奏歩は全くチームプレーをしようとしません。確かに器用だしボールのコントロールは素晴らしいと思います。体力だってあるけれど。バスケはチームプレーなんじゃないですか? 正直奏歩は私たち皆を馬鹿にしていて協力し合う気持ちが一切ありません。意地悪されるのだってもとはといえば奏歩が女子に全く歩み寄ろうとせず口もきかないから自分で招いた事態なんです。愛想だって悪いしね。奏歩には魅力がこれっぽっちもありません。同じ女子バスケにいては勝てる訳がありません。私がバスケを辞められないなら奏歩に辞めて欲しいのが本音です。もしくは彼女の人柄が変わるなら私は仲良くしてもいいかなと思います。今の時点では女子バスケ部はめちゃくちゃだと思います。先生どうにかしてください。」


 凛は自分のことはさておき、奏歩の愚痴を書き連ねた。多分信子も雄ちゃんも麻帆さんだってうすうす同じ事を感じているはずだ。村上先生がどうして奏歩を贔屓するのかは分からなかったがどうせ安っぽい同情なんだろう。奏歩が今のままでは絶対に部活が楽しくない。そんなのは嫌だった。校長が始業式で言ったように私は青春を謳歌したい。部活だって楽しみたい。邪魔されたくない。そんな気持ちで凛は交換日記を提出した。


 練習が始まった。村上先生はランを強化すると言い、恒例になった1キロ走の指示をした。凛はやっと走ることに慣れてきて6分0秒のタイムを出した。信子を抜いたので罰ゲームの腕立て伏せは信子がすることになった。信子は凛と同じく膝をついて20回をこなしていた。


 次はどんなボール練習かと凛は考えたが、村上先生は体育館に戻るとタイマーをセットし始めた。バスケ用の大きな電光掲示板でコンマ何秒かもはかれるタイプのものだ。耳障りで大きなブザーが鳴り響く。嫌な予感がした。


「ではこれから言った通り走りを強化します。シャトルランよ。20回。いいわね。脱落者には罰ゲームありだから。」


 シャトルランとはアウトラインからフリースローラインまでをダッシュで往復し、さらにアウトラインからハーフラインを往復し、さらにさらに向こう側のフリースローラインまでを往復しそして一番端のアウトラインからこちらのアウトラインまでをダッシュするメニューだ。


 しかも1回ではない。5秒のインターバルをあけて20回を繰り返す。聞いているだけだと何も分からないが実際走ってみて凛はそのキツさに卒倒するかと思った。なにこれしんどい。肺が苦しい。しかも皆で一斉に走るから速いおそいの差が激しくでてしまう。疲れた耳にブザーが本当にうるさい。嫌すぎてしょうがない。ああ辞めたい本当に。凛は半分貧血を起こした。だがそれは皆同じのようで苦し気な息が聞こえてくる。15回を走り凛はギブアップしようと決意した。罰ゲームがなんでもいい、もう無理です先生私。


 16回目のシャトルラン。凛はギブアップを表明した。このしんどさから逃れられるならなんでもいい。もう嫌だ。信子はタイマーが止まったのでほっとしていた。信子もギブアップ寸前だったのだ。いや、他のメンバーも止まったことにほっとしていた。誰が最初に言い出すかの根性比べだった。


「凛。あなたが罰ゲームね。なんでもするわね?」


 鬼コーチが言う。


「はい。」


 凛はか細い声で言い、膝をついてその場にくずおれた。貧血で失神寸前だった。


「わかりました。では罰ゲームとして凛が交換日記に書いた事を読み上げます。」


 

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