第7話

冒険者ギルドから戻ると時刻は日が沈みだしたころだった。すぐに夕飯の支度をして、食事をとる。その後は鏡合わせの儀式をした後にペルリタさんから意外な言葉がでた。


「アリシア。ウルフェンとも鏡合わせの儀式をしてみなさい。あなたの手から直接給水の魔法の水を飲んだことからもあなたとの魔力の相性は悪くないはずだから」


「ですがペルリタさん。鏡合わせの儀式は危険が伴うのではないのですか?」


「それは、魔力の相性が悪いか魔力を流しすぎた場合ね。相性は問題なさそうだし、何か異変があればすぐに給水の魔法を発動してそれ以上魔力が流れないようにしなさい」


そこまで言われては断ることもできず、私はウルフェンに魔力を流してみる。だが私の心配をよそにウルフェンは終始ご機嫌で尻尾をブンブン振り回していた。


その日はそのまま就寝して次の日、私から離れようとしないウルフェンと一緒に寝たのだがウルフェンがお漏らしをしていた。朝一番にたくさん怒られたウルフェンの尻尾は垂れ下がってしょんぼり感がすごかった。


お昼前に薬屋の玄関についているドアベルが鳴り、受付へ向かうと十歳程度の子供が直径3cm程度の竹を二十本持ってきていた。


「おら。依頼通り二十本取ってきたぞ。依頼表にサインしてくれ」


そんな態度を取った冒険者らしき子供はペルリタさんに拳骨を貰っていた。


「冒険者の基本は依頼人に目的の詳細を聞いてから品物を取ってくることでしょうが」


そう話した後、念のためか私に依頼物として納得できるかを聞いてきたが私は首を振る。


「最低でも直径10cm程度の竹を取ってきてください」


私は手で輪を作り、大きさを伝える。冒険者の子供は面倒そうに街門の方へ向かっていった。ペルリタさんはそんな態度に少し怒っていたが、私が置いていった竹をいじりだすとそちらに興味がわいたようだ。


「そう言えば竹をどうするつもりなの?」


「軟膏を入れるための容器を作ろうかと思いまして。竹ならすぐに生えてきて加工も比較的簡単なのでちょうどいいかと思ったのです」


そう言って、ナイフで竹の節二節分を切り取り、下側は竹の外側を、上側は竹の内側をそれぞれ削ることで容器と蓋を作った。


「これは便利そうね。これも商業ギルドに登録しましょう」


「これを登録できるのですか?あと登録したらどうなるのでしょうか?」


「商業ギルドは商品を登録することで類似品の調査を行ってくれるわ。それで類似品がなかった場合、その商品を販売するのに一割の料金を登録した人に払う義務が発生するの。ただその料金を受け取るにはレシピを公開しなければいけないのだけれど」


「登録するのは構いませんが、それだと薬が売れなくなるのではないですか?」


「それを防ぐために蜜蝋を定期的に卸してくれるように頼んでいたのよ。ほかにも取り扱っている場所はあるけれどそこまでは手が回らないわね」


そんな話をしているうちに先程の冒険者が竹を持って三往復していた。一回で三本持ってきているので後四往復だ。私が蜜蝋の処理をして第一号の軟膏を制作している時に竹を運び終わったようでペルリタさんが依頼書にサインをしていた。冒険者が帰ると、私が作った軟膏を見つめ、手に取って確認している。


「確かに今までよりも使いやすいわね。これはどのくらい保存できるのかしら」


「それは今から確認します。竹の劣化の関係もありますから私の能力を使って成分が変わらないかを毎日確認します」


「能力?」


私は裏の畑で薬草の成分が分かる話をしていなかったことを思い出し、それを説明した。すると。


「それはすごい能力ね。薬師には必要な力よ。あとこの能力のことは他言しては駄目よ。じゃあ、軟膏もできたことだし商業ギルドに登録しに行きましょうか」


「えっ。保存期間の検証などの作業が残っているのですけれどいいのですか?」


「それは商業ギルドの方でも調査してくれるのよ。さあ行きましょう」


私はペルリタさんに手を取られ、商業ギルドに向かうことになった。置いていかれそうになったウルフェンが吠えたことで冷静さを取り戻したが、しっかり準備をして結局商業ギルドへ向かうのであった。

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