第6話 とても素敵なオパールペンダント

『半数以上が売れました。問い合わせ待ち状態です』

 プロデューサーの念話で、販売は予想以上に順調みたい。この時間内に売り切れるかもしれない。


「多くのお問い合わせがあって嬉しい。順番に繋いでいるから少し待ってね」

「早めに終わりそうです。マイナの持っている宝石から数は増やせないかしら」

「厳選した輝きのオパールは数が少ないのよ」

「今の数では全員のお客さんが買えないです。マイナはそれでも平気?」

「大丈夫ではないけれど、手元にない宝石は出せないよ」


 事前に在庫が少ないことはみんなに伝えていたけれど、エリ姉はお構いなしに押してくる。生配信の中で妥協点を見つける掛け合いは、お客さんも楽しんでいる。

「マイナはお客さんを悲しませるの? お姉さんは寂しいです」

「私も多くのお客さんに満足して頂きたい。でも数を揃えるのは大変なのよ」


『残り僅かです。売り切れも時間の問題です』

 手持ちのルースを頭の中で確認した。大きめのルースを再研磨すれば、少しだけ数は増やせる。でもこの方法は普通に考えれば価値を下げる行為だった。

「マイナの大好きなオパールが悲しみます」

「少しだけよ。でもそれ以上は増えない」


『再研磨で数を揃える。オパールの紹介中は売り切れにしないで』

『伝えておきます』

「マイナは優しいです。お姉さんの希望を叶えてくれるマイナは頼もしいです」

 売り上げは減るけれど、お客さんを満足させる数が揃った。オパールの紹介中は雑談に集中できる。


「今度は私の願いを叶えてくれる?」

「頭を撫でてほしいのかしら」

 ハンターたちから笑いが起こった。私がエリ姉に頭を撫でてもらう行為は、周知の事実らしい。本当のことだから反論できない。


「エリ姉の趣味が知りたい」

 肯定も否定もせずに聞きたい内容を伝えた。エリ姉には謎が多かった。

「お姉さんの趣味はマイナと遊ぶことです。毎日が充実しています」

「私もエリ姉と遊ぶのは楽しい。でも聞きたいのは趣味よ。何かを集めたりはしていないのかな。付与魔法以外で知りたい」


「難しい質問かしら」

 エリ姉が口元に手を当てて考え出した。ただの雑談ならゆっくり待てる。でも今は通販番組の生配信中だから、沈黙は避けたい。


「趣味でなくても、喜べるものでも構わない。もちろん宝石アイテム以外ね」

「マイナの手料理は好きです。独特の味わいが癖になります」

「エリ姉が普通に褒めてくれた。料理を作るのは好きだから素直に嬉しいけれど、どの料理が一番のお気に入りなの?」


 宝石アイテムと関係ない話題になったけれど問題はない。この気取らないやり取りがこの通販番組の特徴だった。

 配信映像ではミレミランさんがポーズを取っていた。画面の左側には宝石の種類や価格が表示されて、私とエリ姉の会話は声のみだった。


「黄色くてお米と一緒に食べるスープです。刺激的な香りと辛さが虜になります」

「カレーライスが好きなのね。私も大好きだから食べたくなってきた」

「お姉さんも一緒に食べたいです」

 配信映像の見えない部分でエリ姉が身を乗り出していた。


「王都に戻ったら作るね。エリ姉は料理を作らないの?」

「お姉さんは食べる専門です。マイナの手料理は不思議かしら。この世界の料理と思えないくらい美味しいです」

 エリ姉の話しを聞きながら念話を飛ばした。


『オパールの数は足りそう?』

『そろそろ限界です。売り切れになります』

『区切りのよいところで、次の商品を紹介する』

「喜んでくれて嬉しいから、次も頑張って料理を作るね。次と言えば、宝石アイテムも次の商品を紹介する時間よ」

 テーブルの横にある箱へ視線を移した。

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