転生から店を持つまで

転生1

社会人。


それは孤独との戦いである(偏見)。


わたし、百合園陽葵ゆりぞの ひなたが働いていた会社は、世に言うブラック企業とかに類するものではなかった。


あ、定時帰りはあんまり無かったけど。


ともかく、徹夜とか泊まり込むとか、社畜らしい社畜暮しはしていなかった。


しかし、この会社のスタンス。

わたしにはどうも合わいものだったのだ。


まず、多少のことは出来て当たり前で頑張りを評価──すなわち褒められることは無い。

昔から私は「褒めたら伸びる子」で周りから認識されていたし、自分自身もそう思って生きてきたので、この会社のスタンス……いや、「これくらい出来て当たり前」という社会のスタンスに慣れることは無かった。


それだからだろうか、精神的疲労で鬱になり、孤独死してしまった。


ちなみに私が死んだ後、書き残した遺書が見つかり、それによって「出来て当たり前」という社会の風潮についてダメなんじゃないか、という議論が始められたらしい。


もう死んだ私には関係ないけどね……。


──────────


話は変わるが、天国や地獄というものは実際存在するのだろうか?


これに関しては哲学的な、いや宗教的な何かが関わっているだろうし、非現実的だとか非科学的だとかで信じない人も大勢いるだろうが、少なくとも私は存在すると思う。

実際私の残した遺書の中にもそれっぽいこと書いていた。


そして今、その「信じる」が「確信」に変わった。


一面の景色が白で統一された空間、ギリシャとかにあるような神殿の跡地みたいな場所に私はいた。


「フームなるほど〜。社会に出て就職したはいいものの孤独死しちゃったんですか〜。可哀想ですね〜」


すこし棒読みなきもしなくもないが、なにやらA4サイズの紙一枚を眺めながら言う。

白髪に白めな肌、白い衣服に、白い目と白い羽根を身に付けた少女はどうやら女神らしい。


「そうなんですよ〜。だって酷くないですか? 締切が一週間後の資料を三日で仕上げて上司に提出したのに、褒めるどころか「ちゃんとやったのか?」ですよ? 私が思うに、普通は「よくやった、早かったな、これからもファイト」て返すのが上に立つ者として必要な事だと思います!!」


「…………社会舐めてますね〜」


おっと、何か聞こたがこれは無視。

私、嫌なこと不都合なことは聞かない主義なのである。


「それでなんですけど、これから私どうなるんです? 記憶無くした状態で生まれ変わるんですか?」


そうは言ったものの、またあの世界に生まれ変わるのは嫌だ。

なんてったって生きづらいからね。


そんな私の思いを汲み取ってか汲み取っていないか、女神さんはこういった。


「それも出来ますけど、すぐにまた死なれるとこちらとしても困るので〜程々に生きやすい世界に転生させてあげます〜」


「あ、記憶あった方がいいですか〜?」と聞かれたので、もちろん承諾。

てか程々に生きやすい世界ってなんだ。


「容姿はどんなのがいいですか〜? ゴリゴリのマッチョメェ〜ン? スタイリッシュなイッケメ〜ン? 素朴なメガネボ〜イ?」


「え、選択肢男だけじゃん!?!?」


「あははっ、冗談ですよぉ〜もぉ〜。ああ、でもそいうロールプレイしたいならありですよ〜?」


「私にそんな性癖ないのでいいです」


真顔で首を振ると、「そうですか〜そうですよね〜」となぜか納得する女神さん。

どうやらからかわれたらしい。


「それじゃ〜普通に、どんな容姿がいいですか〜? ゴリゴリのマッチョガ〜ゥル? スタイリッシュなビュティフォウガ〜ゥル? 素朴なメガネガ〜ゥル?」


「容姿のレパートリー一緒か!!」


ツッコミを入れると、女神さんは「やれやれ」といった感じに両手を上げて肩を竦める。


「じゃあなんです〜? 超絶美少女の若い女の子にしろとでも言いたいんですか〜?」


「あ、じゃあそれで」


「も〜前世で彼氏出来なかったからってムキにならなくていいんですよ〜?」


「……超絶美少女の若い可愛い女の子で転生させてください。」


少しムカッとしたが、きーこえな〜い。

都合の悪いことは自動的にフィルターにかけられるからね。


「ん〜…………。まぁ分かりました〜。百合園陽葵ゆりぞのひなたもといヒナタ・ユリゾノ。あなたは超絶美少女の若い可愛い女の子として、剣と魔法の世界に転生させてあげましょ〜う。──リエンカーネーィション〜」


すると同時に、視界全体が更に真っ白になり、浮遊感が訪れる。


しっかし剣と魔法の世界か。

戦うのは怖いし、サポート系の職業、例えば鍛冶師とか薬師とかがいいな〜。

飲食系は料理出来ないから無理だし。

あ、魔女とかも可愛くていいな〜、モテそうだし。


そんなことを想っていると、急に強烈な眠気に襲われる。


とにかく、幸せな来世に乞うご期待。


私は眠気に逆らわず意識を任せ、眠りについた。


──────────

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