年下に、ディスられる

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翌日。

お人好しすぎるエルダリアさん一家で朝食も食べさせてもらった後、私はすぐ鍛冶工房に向かった。


「さ〜て、どんな剣を作ろっかな〜……」


倉庫にある鉱石を見ながら腕を組む。


倉庫の中には、近鉄鋼きんてっこう深鉄鋼しんてっこう魔源銅まげんどう緑翠石りょくすいせきの四種類がある。


エルリアさんは「片手剣を作って欲しい」とのことなので、この中から一種類もしくは二種類の鉱石を精錬してハンマーで叩けばいい。


だがその鉱石を選ぶというのがなかなかに難しい。


例えば近鉄鋼きんてっこう

これはいわゆる普通の鉄であり、その中でも浅い所で手に入る金属だ。

特徴はかなり軽い金属であり、近鉄鋼きんてっこうをメインで使う剣はとても軽くて扱いやすいという。

だが軽い反面、耐久力は落ちてしまう。


そして深鉄鋼しんてっこうであれば近鉄鋼きんてっこうとは逆に深いところでしか取れない、レア鉱石の部類に入る金属だ。

特徴も対照的でかなり重い金属であり、深鉄鋼しんてっこうをメインで使う剣はそこそこ重量があって、なかなか癖のある武器になる。

その反面、耐久力は高くなるらしいが。


基礎はこの2種類の鉱石のどちらかと、もう一つ別の鉱石を合わせて精錬した合金で作ると良いらしいのだが、金属を精錬して合金にするのはかなり難易度が高く、失敗すると最悪その炉が使い物にならなくなってしまうのだとか。


チラッと視線を炉に向ける。


もしこの鍛冶工房が私のだったら遠慮なく全種類混ぜて合金にするとかしたいのだが、ここはエルダリアさんからのお下がりで、すごい大事にしてそうだったから万が一にも壊してしまわないように、なるべくリスクは避けたい。


じゃあ無難に近鉄鋼か深鉄鋼で作るべきかとも思ったが、それだと普通の剣になってしまいそうで、この鍛冶工房を譲ってくれるとも言ってくれたエルダリアさんにも申し訳ないし、話しかけてきてくれたエルリアにも申し訳ない。


そんな物思いに浸っていたせいか、工房の入口が開いていることに気が付かなかった。


「あ、あのぉ……」


チラッと顔を覗かせたのはエルリアだ。


今更ながらに容姿を説明すと、肩の辺りまである髪は紫色で瞳は赤色、成人したといってもまだ13歳なので、身長も小さいし、顔の輪郭もまだまだ幼さが残っている。

そして胸の大きさは、見る限りB〜C……、


「なんでだよ……!!」


「ひっ……」


「あ……ご、ごめんね? 取り乱しちゃった……」


危ない危ない、あまりのショックに我を忘れるところだった。

……いや、忘れてたけども。


膝から崩れ落ちていた私は立ち直ると、距離をおかれたエルリアに何事もなかったかのように話しかける。


「お、おはよーエルリアちゃん。どしたの〜?」


「お、おじ……祖父に行けって言われたので」


「ふーん、そっか! ならちょうど良かったよ! あなたの剣の素材何が良いかで迷ってたから、本人の意見を聞きたかったところだったんだよ!」


「は、はあ……。失礼します……」


恐る恐る入ってくるエルリア。

そこまで緊張するもんなのかな……。


「……あ、あの……つかぬ事をお伺いしてもいいでしょうか……?」


「ん? いいよーべつに、何でも聞いて!」


つかぬ事をお伺いしてもいいですか、なんて言葉よく知ってるな。

私は育ちの良さに感嘆する。


「その……さっきのヒナタさんの反応なんですが……」


「うぐっ……!?」


これには言葉が詰まってしまう。

なんせ相手は13歳と私から見たらまだまだ子供、この年で胸のコンプレックスが理解できるとは思わないし、なんせ相手はまだまだこれからが成長期、そして既に私よりも大きい。


はたして説明しても理解してもらえるだろうか?


いや、そもそも胸を真っ先に見てしまった時点で変態認定とかされないだろうか……。


私が答えあぐねていると、


「やっぱり、胸のことですよね……?」


と言った。


…………なぬ!?


「その……胸が小さいのを気にする気持ちはわかります。でもヒナタさんもお若いんですから、気にする必要はないと思いますよ……?」


と言う。


…………ナメてんのかこんにゃろう!


胸が小さいのを気にする気持ちが分かるだ〜?

前世と今世どっちとも胸が小さくないと分からないよこの喪失感……ッ!!


そもそも、自分より年下なのに胸が大きいヒトに言われても煽りにしか聞こえないの!!


それに、お若いから気にする必要はないってェ〜?? 前世はっ、それでっ、まったくっ、成長っ、しなかったのっ!!!!


「………………………………そ、ソダネ……」


だがそれをそのまま声に出すわけにはいかない。

なんてったって相手はまだ子供、子供の言葉にムキになっては大人気ない。


「ま……まあ、そんなことはいいとして……ほ、ほ本題にも、もどるけど……」


あ、ダメだ。

悔しさと悲しさと憤りで上手く声が出せない。


どうにか平常心を保とうとしたけれど体はしっかりと正直者らしい。


そんな姿を見て、何を思ったのかエルリアは火に油を注ぐような爆弾発言をした。


もしかしたらこれは彼女なりに励ましのメッセージのつもりだったのかもしれない。

第一、あんな反応されてすぐに真面目な話に戻すのは、話題によっては相手を不快に思わせてしまう。


だから、ある意味では彼女の発言は間違っていなかったのかもしれない。


何か自分が相手に迷惑をかけてしまった場合、人としてというのは当然のことであり、これができる人とできない人とでは、人間関係の難易度も大きく変わってくる。


そもそも今回私に非はないし、少なからず相手に心の傷を負わせてしまったエルリアに非がある。

だから私の強引な話題変更に乗らす、ちゃんと謝ってくれたのはいい事だ。

育ちの良さを感じる。


…………しかし、一言、余計だ。


「その……胸が大きくて、ごめんなさい」


「────あ゛??」


おそらくこの時の私の顔は、怒りを通り越して健やかな笑みを浮かべていたのだろう。


この後、エルリアの胸ぐらを掴みそうになったのは言うまでもない。


だが、これ以上この話題に触れず、昂る気持ちを抑えて暴力に走らなかった私を褒めて欲しい。


けれど、エルリアに距離を置かれたのは言うまでもない。

なんなら泣かれた。


……少し、反省。

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