結婚式の準備

 ブラック企業の時間を探して二人でプランを練る。これがまた難しいのだ。

 出社する建物は同じなものの、部署も違えば内容も残業時間も違いはある。

 それらの隙間を見つけて誰も目につかないようにして会う。


「ねぇ、ウエディングドレス着たい」

「そうか」

 彼女の希望を叶えるために、隙間時間を合わせて、ウエディングプランナーさんに頼んでみた。表現するのは簡単だが、30分で切り上げないといけいない時もたくさんあって、担当者の人にはとても申し訳ない。

 1度、2人で休暇を取ってしまったものだから、もう2度目は結婚式当日しかないだろう。

 プランナーさんは電卓をはじいて表示する。

「こんなにするんだ」

「これは、ありがたくご祝儀貰わないとね」

 ブラック企業だから時間はないがお金はある。

「だな」

 親友と呼べるひとはこじんまりとした二次会に呼ぶとして。

 会社関係者を呼ぶことはだいぶ盛大な式となりそうだ。

「今の時代にこれだけ呼ぶのだもの。昔だったらどれだけの人が参列しようとするのか。考えただけでゾッとするわ」

「そうだなぁ。まだまだ義理って大切だしな」

 ネット社会だからこそ、充実した対面でのコミュニケーションが必要なのかもしれない。特に法律が関係するような重要な場面では。

「へぇ、元カノも呼ぶの?」

「仕方ないじゃん。重要な役職なんだし」

 彼の元カノは取引先の窓口となっている。優秀な方なのだろう。名前は会社の会議でよく耳にする。嫉妬もするが、それ以上に尊敬の念も抱いていた。

 女性蔑視の人が皆無というわけではない。女性に学は必要ないと言っている人たちまで彼女の意見はよく聞く。

「見たくないかもしれないじゃない。彼女、まだ独身なんでしょ?」

「ああ、確か」

「――ほかの人と同じように案内していいわよね」

 子供の自分には元カノには見てほしくないという思いしかないが、社会的にはそうも言ってられないだろう。

「そう」

 彼は黙ってしまったが、やるしかない。

 元カノには欠席の返事が来るように、願いながら。ほかの人には時間を取らせて申し訳ないと思いながら招待状を送った。

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