幼き日々


 あれは夏の暑い日だっただろうか。新緑の力強さと美しさ、虫の生命の営みを何となく肌で感じていた。祖父母の家の縁側で祖父と二人で仲良くスイカを食べてる時のことだ。

「紗雪や」

 ふと祖父はいった。

「何、じぃじ」

 まだ幼かった高世は無邪気な表情で応じる。

「人が何かをやり切るために1番大事なことは何か、わかるか?」

 高世はずーっと考えたが、分からず、髪の毛を掴んでわしゃわしゃにする。高瀬の顔まわりは抜け毛でいっぱいだった。

「分からないよ、じぃじ。教えて!」

 祖父は優しく微笑み、高世の顔についてる髪の毛を払いながら語った。

「それはな、『覚悟』という名の約束なんじゃ。何かをやり切るためには必ず、さまざまな嫌なこと、怖いことが目の前に出てくる。自分が想像していた以上のものがじゃ。そこで光るのが『覚悟』なんじゃ。『覚悟』というのはな、紗雪。自分の目的のためになんでもやるということではないぞ。それでは犯罪を働く悪い奴らとさして変わらん。本当の『覚悟』とは己の信じた正義のために自らが歩んできた道を曲げずにこれからも進み続けることを決意するということなんじゃ。」

 高世はその言葉の意味をずっと考えていたが、次第に頭を抱えて、

「じぃじ、まだ僕には難しいよー」

と言うと、祖父は大笑いして言った。

「ハッハッハ!いいんじゃよ。紗雪もいづれわかる時がくるじゃろ」

 祖父が語り終わる頃には夕日が落ちかけていた。その夕日の輝きを高世は最後まで目を離さなかった。

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