教師の考えとオレの考え

 教科担当はその最中、表情を変えずに高世に言う。

「しかし、高世さん、この応援歌練習は社会の理不尽に耐えるという意味も持ち合わせているんですよ。」

 教科担当の言葉にまたクラスは静まる。

「あなたのように考える人もいるでしょう。でもね、正直にいうと、この応援歌練習の本当の意味は理不尽を耐えることにあるんですよ。理不尽がこの世からなくなることはありません。そんな中、理不尽に屈していたらどうなりますか?あっという間に社会の波に飲まれてしまいませんか?」

 教科担当が高世に問いを投げかける。しばらく経った後、思索に耽っていた高世が口を開く。

「『理不尽はなくならない』先生は今そうおっしゃいました。確かにそれは正しいです。『なくす』ことは不可能です。ですが、減らすことはできるんじゃないでしょうか。そうやって「なくならない」ことばかりに目を向け続けた結果、今、理不尽が世の中に蔓延する社会が形成されているんじゃないんでしょうか。」

「であれば、あなたはどうすればいいと思いますか?」

 教科担当が改めて問いを投げかけた。高世はさっきより自信がこもった口調で言う。

「今、社会について述べましたが、この場は学校についての話ですのでそれについて提案させて頂きます。校則上、本来この応援歌練習は生徒会組織に属している応援団主導による活動です。生徒会というのはこの高校に在籍する生徒からの信頼を受けて初めて成立する組織です。そこで私が考えているのは、現高1から高3までの全ての在校生を対象とした「生徒総会」を行うということです。そこで応援歌練習に対して何かしらの思いがある生徒全員が発言し、他の生徒はその意見を聞きながら、冷静に議論する。そして最後に、応援団の今後のあり方も含め、応援歌練習はどうすべきかを「投票」し、全員が納得のいく結果を出す。というのはいかがでしょう?」

 またクラス中は拍手に満たされた。教科担当は言う。

「では、高世さん。あなたが生徒会を動かして、それを実現させてくださいね。」

 高世は嬉しそうに頷いた。これで本当の意味でこの高校は素晴らしくなる、そう希望を持った。だが、その道はまさにいばらの道だった。

 

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