第45話 剣の道

 その後、皆で大部屋へ移動して朝食を摂る事になった。


「とんだ災難だったな、シン」

「あぁ、参ったよ本当に」

 シンとガレオは二人して苦笑した。


「シン、飯が済んだら鍛錬するんだろ? オレが付き合おう」

 向かいの席に座っていたヒューゴが前のめりになって、シンにそう尋ねる。

 

「すまないヒューゴ、今日はガレオとやる」

「そうか……わかった」

 ヒューゴは思いのほかあっさりと引き下がった。シンはそれが少し気の毒になって、ひとつ提案をする。


「ガレオとの鍛錬が終わった後でいいなら構わないけど、どうする?」

「本当か!? 勿論やる。必ずだぞ、シン」

「あぁ」

「よし、ではそれまでオレは一人で剣の修練をするとしよう。準備ができたら、いつでも呼んでくれ」

 ヒューゴは早々に朝食を済ませ、そう言い残してどこかへ出かけて行った。


「シン、やはり私は貴公が嫌いだ」

 さっきまでヒューゴの隣で大人しく座っていたヴァレリアが、シンに険しい口調で言う。


「だろうな。じゃあ、俺からも言わせてもらう。ヴァレリア、俺はあんたの事は嫌いじゃない。むしろ親しくなりたいと思っている。だがどうしても俺が嫌いなら、それで構わない。もし俺の身に何か起きたとしても、放っておいてくれていい。でも俺は、あんたが危機に陥ったら必ず助けに行く。必ずだ。それだけは忘れないで欲しい」

 シンは優しく、そして真剣にヴァレリアに今の自分の想いを伝えた。


「ぎ、偽善はやめろ。口だけなら何とでも言える」

「それもそうだな」


 ヴァレリアは食事もそこそこに大部屋を後にし、そのまま外へ出て行った。


「皆、すまない」

 シンはその場に残っている全員に謝った。


「シン……」

 ガレオはシンにどう声をかけて良いか分からず、口を噤む。


「怒らせてしまったみたいだな」

「シン、君の対応は間違っていない」

 見るからに落ち込んでいるシンに、グレッグが真顔でそう言った。その一言にシンは少し救われた。


 グレッグは建前を言わない。だからこそ、今のグレッグの言葉はとても心強かった。


「ありがとう、グレッグ。でもさっきのは気を遣って言ったわけじゃないよ。あれは俺の本心だ。伝わらなかったみたいだけどな」

 シンはヴァレリアが去って行った方を見ながら寂しそうに言う。


「シンの気持ちはちゃんと伝わってるよ」

 シャロンはこの暗い雰囲気を掻き消すようにして、笑顔でシンを励ました。


「ヴァレリアは人見知りだからね。シンに壁を作っているんだと思う。僕も最初はそうだった。シンの良さがわかれば、これから少しずつ心を開いてくれるんじゃないかな」

 ずっと心配そうに見ていたルイスが、たまらずシンに声を掛ける。


「シャロン、ルイスありがとう。そうだと良いな」


 シンは食事を終えると、ガレオと共に鍛錬へと出かけた。


「この辺でどうだ?」

「いいんじゃないか」


 ガレオの案内でシンは拠点から少し離れた広場のようなところへ来ていた。それからシンはガレオの立っての願いで組み手を行った。しかしガレオには武術の心得が無かった為、シンが手ほどきをする形となった。


「なるほどな。なんとなくわかってきた。シンの戦い方は、避けることに一貫してるんだな」

「そうだな。これも俺の師から教えてもらったんだ。戦いは零か百だってな」

「避けるか当たるか、ってことか。滅茶苦茶だな」

「な? ガレオもそう思うよな?」

 少し間を置いて、二人は同時に吹き出した。


「あぁ、とんでもないな。でも、お前はそれでヒューゴに勝った」

「まぁそうだな」

「滅茶苦茶だが、理にかなっている。シン、もっと詳しく聞かせてくれ」

「わかった。じゃあ次は、どう避けるかって話になるよな? それなんだが、ひとえに避けるといっても種類があって」


 そのような調子でシンの講義はしばらく続いた。ひとしきり説明が終わったところで、二人は一息つくことにした。そのタイミングでシンは朝から気になっていたことをガレオに聞いてみた。


「なぁガレオ、ずっと気になってたんだが仲間はまだ他にもいるんだよな?」

「あぁ、シンがまだ会っていないのはあと二人だな」

「そうか。その二人ってどんな人達なんだ?」

「一人は回復士で、もう一人は獣使いだ。二人とも今は別件で動いている。シンにも紹介したいが、なかなか時間が取れそうになくてな。すまない」

 実はシンにはもうひとつ疑問に思っていた事があったのだが、今の話でそれも腑に落ちた。念の為、ガレオに確認してみる。


「いや、いいんだ。人にはそれぞれ事情ってやつがある。そうか。じゃあ次にあの館へ行くのは、その二人が揃ってからってことになるのか」

「そうだな。館へ突入するタイミングはルイスとグレッグが調整してくれている。そのうち話があるだろう」

「そうか」

「そろそろヒューゴと交代してやるか。呼んでくる」

 ガレオはそのまま広場から離れて行った。それからすぐにヒューゴがやってきた。


「待ちくたびれたぞ、シン」

 ヒューゴは少し皮肉っぽくそう言うが、顔はかなり嬉しそうに見える。


「すまない。ガレオとつい話が盛り上がってしまってな」

「そんな事だと思った。シン、オレもお前に話がある」

 ヒューゴの顔から笑みが消えた。シンはその雰囲気の変わりように一瞬身構える。


「シン、お前は剣士になるべきだ」

「え?」

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