カフェ『シャーロキアン』の事件簿

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序章 6年前の悪夢

6年前の悪夢

 京都、とある寺院の境内。

 中学生の少女の前に、その両親だろうか。血を流し倒れた夫婦がいた。


「お、お父さん……お母さん……!」


 その夫婦を見下ろすように、修学旅行中だろうか、学ランを着た少年が手に血を染めつつ立っていた。


「ひひひひひ! これが俺の力っていうのか! 試しに使ってみたが、最高じゃねぇか!」

「お……おい! お前、何やっているんだ!」


 同じく学ランを着た少年の連れが彼を止めようとするが、その声は震えている。


「ん? 今、俺は異能を手に入れて最高の気分なんだ。それを止めようというなら……お前も俺の能力の餌食になりたいのか? 」

「ひ……ひぃ!」


 連れの少年は泣きながらその場を逃げた。


「さて、これで偉そうな先生も、ムカつく先輩も、嫌がらせをする後輩も消すことができるぜ。だが……」


 そう言うと、少女の両親を手に掛けた少年は少女を見た。


「こいつは俺が気まぐれで手を掛けた大人の娘か?」


 少年はそう言うも、少女は泣いてばかりで答えない。


「さっきも言ったが俺は最高の気分なんだ。慈悲を与えよう」


 そう少年が言うと、少年の腕が刃物に変化した。


「お前も両親のところに送ってやるよ!!」



(何で京都に家族旅行に来ただけなのに、両親が殺されなければならないの……!?)

(何で修学旅行生が両親を殺すの……!?)

(もし、彼が異能に覚醒して両親が殺されたなら……)

(私は異能を許さない……!!)



 少年が少女に向けて腕の刃物を刺そうとした時、少年は違和感を感じた。


「あ……あ?」


 少年の肩に大鎌が刺さっていることに。そして、少年の変化した腕が元に戻っていることに。


「……許さない」


 少女は大鎌を持っていた。


「私は異能を許さない!」

「な……なんだよコイツ……! それに、俺の腕が……!」


 少年は再び腕を刃物にしようとした。しかし、そうならなかった。

 少年が焦っている間にも、少女は大鎌を振り回し、再び少年の身体を痛めつけた。


「が……がはっ!」

「私は貴方を絶対に許さない……」


 幾度と無く続く少女の攻撃に、遂に少年はその場に倒れる。


「な……何なんだよ!お前!」


 少年が驚愕するも、そう思った時には彼の首は少女の大鎌によって切り離されていた。



…………



…………



…………



…………



「ん……ん……」

「星羅、居眠りしていたでしょ」


 黒色ショートカットの大学生、瑞浪星羅は、居眠りしていた事を隣にいた栗色ロングの友人、桂理子に指摘された。


「まぁ、この講義は緩いから大丈夫だと思うんだけど、気を付けなよ」

「う……うん」


 だが、星羅にとって、理子の忠告は頭に入っていなかった。


(また、あの夢か……)


 6年前、星羅の両親が殺された時の夢だ。


(しかし、あの事件は容疑者が自殺した事になっていたはず。何でこんな内容の夢を……?)


「星羅、顔が暗いよ」


 星羅の事を心配した理子が話しかけてくれた。


「だ、大丈夫だから」

「だったら今日も行こうよ。八王子のシャーロキアンに。今日の講義はこれだけでしょ」

「そうだね」


 八王子駅の近くにあるシャーロキアン。そこは星羅が通い詰めているカフェだ。

 気分転換には悪くないと思い、星羅は理子の誘いに乗る事にした。


「それじゃあ、14時に八王子駅改札前集合にしようか」

「いいね」

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