第24話 『ここが出発点』

倉岡に連れていかれた先を見て、私は絶句した。


有料会員限定の高級パーソナルジム。

宮殿のような外観に大きな看板で『dünn(デュン)』と書いてある。有名なジムだ。CMでもよく目にするが、いざ調べてみるとその値段にみんな恐れおののいて手を出さない、そんなジムだ。


店の前に構えられたのぼりには、モデルや芸能人が露出度の高い服を着て微笑んでいる写真がプリントされている。


「デュンの広告塔に抜擢されてね。一週間後くらいから俺がメインキャストのデュンのCMが放送されるんだ」


私は絶句したまま倉岡の方を見る。


サングラスを掛け、建物を見上げる倉岡。

その口元は笑っていた。


「俺体動かすの好きなんだよ。親父とよく一緒に色んなスポーツやってさ、定番だけどキャッチボールとか。あと早く走るコツとか教えてもらって徒競走一位取れたりして。そういうのがあってずっと体動かすの好きなんだよね」


ほーーーーーーん。健気かよ。


そういえば倉岡の裸見た事無いな。

いや、裸って言うとちょっと勘違いされそうだけど、モデルとしてのショウもあまり脱いだところを見たことがない。


Tシャツから覗く腕は確かに男らしい気もするが、それだけではなんともいえない。


勝手なイメージで貧弱だと思っていたが、もしや・・・・・・


「・・・・・・もしかして、結構筋肉付いてたりする・・・・・・・・・?」


恐る恐る聞く私に、倉岡は首を傾げる。


「うーん、まぁ程々かな」


そう言って倉岡はTシャツの袖を肩まで捲りあげ、腕を曲げた。


その瞬間、腕の血管が怒張し、ぼっこりと硬い筋肉が姿を現した。


またもや私は絶句。

・・・・・・こ奴・・・・・・やりよる・・・・・・


そんな私の顔を見て、倉岡は呆れ顔だ。


「これ男なら結構普通だぞ。みんな頑張って腕に力入れればこんなもん」

「・・・・・・触っても・・・いい?」


恐る恐る聞く私に、倉岡は無言でまた筋肉を盛り上げさせてみせる。


ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


私は固唾を飲み、そろりとパンパンに膨れ上がった筋肉に触れた。


なんだこれ!!!!!


皮膚の柔らかさの下に潜む筋肉の硬さが半端じゃない!!!!

女には有り得ない不思議な感触!!!!


私は腕に触れる手のひらに更に力を入れる。


私の手のひらなんかじゃにっちもさっちもいかないような硬さだ。

柔らかいのに硬い。柔らかさ2割に硬さが8割と言ったところか。


とにかく、人体にこんな人離れしたものが着いているのが不思議でしょうがなかった。


私の腕と言ったら・・・・・・


自分の二の腕を持ち上げ見てみる。


WOW。タルンタルン。


素晴らしい筋肉を見た後の私の腕、醜すぎないか?


倉岡がそんな私の二の腕をぷにっと掴む。

そして激しく揺さぶる。


「やめなさいよっ」

「いてっ」


私は倉岡の手をはたいた。


倉岡は私に叩かれた手をさすりながら私を蔑んだ目で見る。


「いやー、これは酷い。脂肪が腕からぶらさがってる。まぁ任せとけって」


倉岡は「来い」と手招きし、ジムの中へと入って行く。


『脂肪がぶらさがってる・・・・・・』

なんと汚い言い回しだろうか。


私は自分の二の腕を悲しみの目で見つめる。


はぁ、イケメンから見たら私のこの理想的なムチムチボディもただの脂肪に見えるのね・・・・・


このボディが通用するのはそこらへんのモブたちだけってこと?


私は溜め息を吐き、自分の頬を叩いた。


よしっ、春日野綾乃、一度決めたらちゃんとやり通すわよ!!


私は気合を入れ、大股でジムの中へと付いて入って行った。

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