閑話 藤壺立后

 七月ふみづき、藤壺の宮が女御から中宮になった。兄も宰相になった。


 若い頃から支え続けた弘徽殿女御ではなく藤壺の宮を中宮にしたのには理由がある。

 それは、若宮―藤壺の宮と兄の不義の子―を次の東宮にしたいからである。そのために父はそろそろ譲位をするのだろう。

 藤壺の宮は血筋こそ、先帝の后腹であるので素晴らしいが、一族郎党すべて皇族である。そうすると、政治的に支えてくれる後見がいなくなるのである。だから、せめて藤壺の宮を確かな位につけようと彼女を中宮にしたのである。

 



 藤壺の宮が中宮になったら、心が大荒れなのは弘徽殿女御である。当たり前だ。父が東宮の時代から一緒にいたのは彼女なのである。父も右大臣で後見もしっかりしていて、第一皇子も生んでいる。悔しくて仕方ないだろう。

 そんな彼女に父は、

「東宮が帝になれば、皇太后の位につくだろう。だからいいではないか。」

 と言ったそうだ。


 そういう問題ではないと思うが。


 本当に気の毒だ。源氏物語における悪役令嬢ポジションは彼女で間違いないだろう。


 ただ、古来、飛鳥時代ごろは皇后には、内親王しかなれなかったので、それを思うと当たり前、そもそもが藤原氏の娘が皇后になるのがおかしいのだと言われればそれまでになってしまうのだろうが。(右大臣、左大臣、どちらも藤原氏である。)




 立后後初の参内のお供には兄も参加したようだ。

 今まで以上に遠い存在となった藤壺の宮をどう思うのだろうか。これ以上無茶をするのはやめてほしい。




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