第2話 大弐乳母の見舞い2
私は今後悔している。
「今日は姫宮も来ていてね。だが、姫宮の姿を乳母以外に見せるわけにはいかぬのだ。」
と兄が言い出したのだ。
「わたくしのわがままでここに来てしまったのですもの。人がたくさんいらっしゃるのなら、ここでお待ちしていますわ。」
「そんなことさせられないよ。わたしがいない間に何かあったらどうするんだ。」
大丈夫です。あなたみたいな人はそういません。多分。父は帝だし・・・
「何もございませんわ。ここは安全ですもの。」
「なんて純粋なんだ。安心おし。この兄が守ってあげるからね。」
あ、間違えた。でも、まあいっか。
「というわけで惟光、皆を
「おにいさま!」
「わかりました。」
ごめんなさい。わたしが来たばっかりに・・・。
「お目にかかりにくくなることが嫌で出家をためらっておりましたが、出家をしたご利益でお目にかかることができ、すっきりと仏様のお迎えをお待ちできます。姫宮さまにまでもおいでいただ・・・」
と弱弱しく尼となった乳母が言うのに、兄が、
「出家をしてしまったのは残念ですが、長生きして出世するのを見届けてください。」
と、涙ぐんでいる。わたしもうんうんとうなずく。乳母も泣き顔だ。兄が続けて
「身近な人が立て続けに亡くなり、たくさんの人に囲まれて育ったが、その中でもあなたに親しみを感じ、かけがえのない人だと思っている。身分柄ずっとそばにいたり、またお見舞いに来たりはできないが、あなたと長く離れていると心細くなるので『さらぬ別れはなくもがな』と思う。」
死に別れたくないと訴え慰めている。兄の言葉に乳母の家族たちも涙ぐんできた。
「祈祷を止めさせて悪かったね。わたしたちは退出するよ。」
私を牛車に運んだあと、兄は惟光や、惟光の家族にお礼を言われている。わたしにもお伝えくださいと言われているのが耳に入る。
兄が、
「おにいさま。」
「なんだい姫宮。」
「わたくしも見とうございます。」
「ちょっとお待ち。」
笑いながら兄が答える。兄は読んだのか、私に扇を渡してくれた。
「心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花」
趣のある筆跡だ。あの方だとお見受けします。夕影の横顔を。だって。
兄に扇を返す。兄は、惟光に隣の人の素性を聞いているが、わからないらしい。
「わかる人を呼びなさい。」
お見舞いに来たんじゃないの?と思うけど、それでこそ光源氏だ。呼び寄せた人も、詳しくはわからないらしい。
兄は、返歌を書いて随身に届けさせていた。
ガラガラと牛車がやってきた。我が家の牛車のようだ。
「やはり女性が夜に一人で帰るのはよくないと思う。背の君と帰りなさい。」
夫を迎えに来させたようだ。兄とはそれで別れた。
「申し訳ありません。お手数を。」
「いいんだよ。たまには二人で牛車に乗るのも悪くない。」
源氏物語には物の怪もでるし、夫がいてくれ心強いなと思いながら帰った。
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