第7話 光源氏の元服

 11歳になった。兄は12歳だ。光源氏12歳といえば、元服げんぷくだ。

 

 光源氏の元服は、清涼殿の父からよく見える場所で執り行われた。異母兄の東宮よりも豪華な儀式だったそうだ。父の寵愛が厚いことがとてもよくわかる。兄に冠を被せたのは、大臣の中でのトップの左大臣だ。左大臣の妻は父の同母妹だ。

 左大臣と正妻、大宮には息子と娘がいる。息子がかの有名な頭中将、娘が葵の上だ。左大臣は、その葵の上を光源氏と結婚させたい。これ以上ない申し出だった。

ち葵の上には、東宮からも入内の打診があったが、左大臣は光源氏を選んだのだ。

 お気の毒・・・。本人は東宮のほうがよかったかもしれないのに・・・

 兄は元服後、左大臣家に迎えられた。


 私も見たかった。豪華絢爛な兄の元服・・・。桐壺帝が感極まって泣くほどの元服。

 今までのうつくしさがそこなわれず、かわいらしさまでも備わったと言われる元服姿。見たかった。

 誰かに垣間見かいまみでもされたら大変と桐壺から出ることが許されなかったのだ。


 さて、めでたく結婚した兄には、桐壺の部屋、左大臣邸に加え、母の実家も与えられた。私もそこに住めないかなと思っている。どうにかならないものか。


 そういうイベントが落ち着いたある日、わたしは飛香舎ひぎょうしゃにきていた。藤壺の宮からのお誘いがあったのだ。多分周りの女房たちが並べてたのしんでいるのだろう。

「姫宮さま、今日は合奏でもいたしましょう。」

 藤壺の宮と合奏して楽しんでいると、父がきた。邪魔するなよ。

「ここはまた天上のような・・・」

 幸せそうな顔で、整えられた席にすわり耳を傾けている。

 御簾みすの向こうには兄がいる。元服を終えた男性は御簾のなかには入れない。切なく思っていることだろう。今頃、藤壺の宮のような人が良かった。とか、心の中で葵の上にケチをつけているところだろう。仲良くなる努力をしなよ。おかげて左大臣に後見してもらえるんだから。

 まだ12歳。神童と持て囃されても何もわかっていないんだろう。


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