後輩少女よ先輩を打て

「勇凛君は何故埋められてるのかしら?」

「......そこの犬に埋められました」

「ふぁからいふじゃないふって!」

「食べるか喋るかどっちかにしろ!」

「じゃあ食べる」

 そっちを選ぶのか......そんなことはどうでも良くて。

「綾華先輩!ここから出してください!」

「う〜ん。どうしようかしら?」

「俺もご飯食べたいんです!お腹空いた!」

「勇ちゃんちょっと見苦しいわよ」

「見苦しいって言うな!」

 あ〜俺のかき氷〜俺の焼きそば〜どんどんアルテミスとアテナの腹の中に入ってく。

「......そんなにお腹空いたの?」

「そんだけお腹が空きました!」

「ほらあ〜ん」

「......美味しい」

「......泣くほどのものかしら?」

 なんと言うか美味しさよりも優しさとか嬉しさとか味とは別の何かに感動をしているよ。

 海に来てよかった。いっぱい荷物持ってよかった。埋められて本当によかった。

「そろそろスイカ割りしたいな〜なんて」

「そんなこと言ってないで俺を早く出せアルテミス!」

「は〜い最初はアテナからね〜」

「わ、私ですか!」

「やりたいって言ってたでしょ?」

「そうですが......」

「アンタは大人なんだから子どもに譲ってあげなさいよ」

「......わかった」

「なんだか凄くやりづらいです」

「アルテミスのことは気にしなくていいから。ささ、目隠しして」

「俺を早く出せ!俺にもやらせろ!」

「後でやらせてあげるからもうちょっとだけ我慢して」

 いつまで埋まってればいいんだよ!そろそろ喉も乾いてきたし普通に暑い。

「スイカ置くから待ってね〜」

「は〜い」

「......よいしょっと。それじゃあ始めよ〜」

「待て待て待てっうぐ!」

「......ちょっと兄ちゃん静かにしようか。奴にバレちまうぜ?」

「うっ!うぐっ!うっ!」

 俺の頭の隣にスイカを置くな!死ぬって!お前らの指示で俺死ぬって!

「......ファイト」

 綾華さんまで俺を見捨てるんだ〜笑ってないで助けろよアルテミス〜

 流石に俺の頭に当たらないようにしてくれると思うけど相手はアテナよ?スパルタ家庭で戦争の女神とか言われ方してるんだよ?

 当たったらどうなるかなんて容易に想像がつく。

「アテナもっと前〜まだ行けるよ〜」

「こっこうですか?」

「いいよアテナちゃん!次は4歩右!」

「ストップ行き過ぎ!左に2歩!」

「難しいです〜」

「ほら綾華も指示しなさいよ!」

「......あ〜手加減はしてあげてね?」

「どう言う意味ですか!」

 やめろアテナ!俺の前に立つでない!もう少し左に行ってくれ!このままだと頭に当たる!

「いい感じ!そこで行こう!」

「思いっ切りやっちゃえ!」

「......ドンマイ」

 もうおしまいだ。諦めよう。神に抗うことなんてできないんだ。

 スイカと人の頭って似てるもんな。潰れたら赤い汁が飛び出るし。形も一緒。間違えることだってあるさ。

 思いっきり俺の頭を叩けアテナ。もういいんだ。未練なんて1つもない。

「行きます!えぃ!」

「やっぱり未練しかないよ~!」

「うわぁ!」

「お~割れるどころか粉砕だね~」

「笑ってる場合か!当たったら死んでたぞ!」

「当たってないからセーフ」

「こんなクソゲー仕組んでおいてよくそんな事言えるな!」

 隣にあったスイカは原型を留めておらず、真っ二つではなくきれいに粉砕していた。

 ......地面も少し抉れている。あの見た目からは想像のできない恐ろしいパワーで抉られた後だ。

「......はは。凄いなアテナ」

「そっそんな事無いですよ~」

「......褒めてないんじゃないかしら?」

 そのとおり。これっぽっちも褒めていません。驚きが隠せず声に漏れているだけです。

「勇ちゃん仕事終わったから出てきていいよ」

「出来たら騒いで無いんですけど!」

 意外と砂が重くて立ち上がることが出来ない。力の問題なのかな?

「アルテミス。ゴー」

「あいあいさ~」

「......掘り返すのも早いんですね」

「終わりました!」

「......皿洗い職人より穴掘り職人目指したらどうだ?」

「どっちの職人も目指さないよ!」

 あら残念。穴掘り職人って時給いくらなんだろう?機会でもできる事だしそんなに高くないか。

 でも、幼稚園生には人気がありそう。トンネルとか作ったり泥団子作ったりして。どうせ泥団子作るのも得意そうだし。

「そういえば勇凛君ちゃんとご飯食べてなかったわよね」

「お腹すいたからなんか食わせろ!」

「はい、勇ちゃんの頭」

「スイカの事俺の頭って言うのやめてくれないか!」

 別の世界線の俺かもしれないけどさ。

「スイカより焼きそばとかかき氷食べたい」

「勇ちゃんの分はちゃんと買ってあるから大丈夫だよ。ほらあそこに」

「......無いんですけど?」

「「......」」

「食べられちゃったみたいね」

「この食いしん坊神様たちめ!」

「ごっごめんなさい!」

「あれ勇くんのだったの?」

「買うときに話したじゃない」

「......あ~そんな事言ってたね」

「おい」

 しょうがない、焼きそばとかき氷買ってくるか。

「......自分で買ってくるわ。なんか他に欲しいもんあるか?」

「かき氷!」

「焼きそば!」

「じゃあ後で金くれよ~」

「おごりじゃないんだ......」

 だってこいつら俺の分食べたし。


「すみませ~んかき氷と焼きそば2つずつください~」

「......なんであなたがいるのかしら」

「......それはこっちのセリフです」

 なんかうちの神様よりもストーカーしている人発見。苦手だからあんまり関りたくないんだけど。

「ところであなたに質問があるのだけれど」

「なんですか?」

「ここって何が美味しいのかしら?」

「......」

「なによ!」

 なんて普通の質問なんだ。てっきり、綾華さんに関しての質問をしてくるだろうと思っていたんだが。

 何か裏があるのか?それとも単純に......

「海の家って初めてですか?」

「そうだけど!何か悪いのかしら!」

「悪くないですけど......」

 なるほど。多分だけど罰ゲームで買わされてるんだ。

「で!何が美味しいのか教えなさいよ!」

「そうですね~やっぱりかき氷とか焼きそばは人気ですね。後はフランクフルトとかカレーとか」

「なるほどね」

「海の家は雰囲気を楽しむものなんでジャンキーなものの方が人気あるイメージです」

「わかったわ。それを参考に考えてみるわ」

「それじゃあこれで」

「えぇ。助かったわ」

 何とも言えない普通の会話で別れを告げる。

 普通の人なのか変な人なのかここの部分だけを切り取ると分からないな。

 ......実際は変な人なんだけどね。


「ここ置いておくぞ~」

「ありがとうございます!」

「ありがと~」

「金は後でくれよな~」

「「......」」

「そこで黙るな!」

 全く。タダで飯が食えると思うな。

「どう?海に来て」

「なんかいい感じの気分ですよ~一人だけ水着であることを除けば」

 戻ってきた時からずっとツッコもうと思ってたんだけど中々タイミングが無くて言えなかった。

「いや~それがさ。色々ありまして」

「色々とは?」

「まず。アルテミスが忘れるじゃん」

「そうだな」

「私は着替えたくないじゃん?」

「知らねえよ」

「アテナはせっかく買った水着とスク水間違えるし」

「アホだなあいつ」

「綾華は誰も着ないなら私も着ないって」

「恥ずかしいですもんね~そこだけ見ると一人だけテンション上がってるみたいで」

 まさしく今の俺なんだけどね。

「アテナは着替えようとしてたけど流石に止めたわ」

「犯罪の香りがしますよね」

 小学生ならまだしも高校生は色々とまずいだろ。

「ということで勇ちゃん。オチをつけてください」

「そんな急に言われても」

「あ!危ない勇くん!」

「甘いわー!」

「何やってるのよ!これじゃあオチが!」

「そんなもん知るかって!」

「すみませ~ん!大丈夫ですか!」

「ナイスボール!」

 こんなオチ。あってたまるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る