最後のPrologue〜また、一つの違う未来の最後…皆幸せに、彼女の唄を聞きに行く あの子の絵を見に行く 

 卒業までニヶ月ちょっと…進路は決まっていない俺は、卒業したら旅に出ようと思っている。


 恋人…付き合ってる…か…

 その子の恋は仮初めか本気かしらないが、彼女は夢を掴んだし、もうごっこ遊びもお仕舞いだなぁ。

 彼女も分かっているだろう。

 俺に彼女の望む答えの無いことが。


 そして…小さい時からずーっと、心から愛していた人はよくわからないけど海外だか遠くに行くと言っていた、いよいよ離れてしまうんだなぁ。

 心から応援する、うん、出来るようになったよ。

 もしかしたら…と思うけど、もう当分会うことも無いだろうな…


 だから、およばりれされて地元のクリスマスコンサートに来ていた。

 しかも普段は野球やってるような所だ。 

 タダでチケット貰ったからな。


 観客席はおおいに湧いていた。

 普段、ステージに出て来ないシアラが姿を見せたからだ。

 その姿は顔や身体の疱瘡で酷い事になっていたと噂されていた姿とは程遠い、昔のままの美しい姿だった。

 デビューして半年…数万の人数が埋まる客席が満席、全てが噛み合い、ここまで駆け上がった。


 スキャンダルと皮膚の病気で姿を見せなくなり、モデルから歌手に転身、その後失踪を繰返した。

 普段はコンセプトキャクター『shara《シャラ》』が歌う。

 MVで、ライブでは巨大モニターでキャラクターが歌う【シアラ】


 そのシアラのコンセプトキャラクターを手掛けて、一部楽曲提供しているのが、新進気鋭のイラストレーター兼アートディレクター、シアラの音声ソフトを使い元からネット上で話題になっていた【釈華shaka】



 この街の人間で、才能溢れる美人姉妹。

 話題になるには十分で…俺の様な奴が仲良くなれただけでも奇跡と言える。

 俺はきっと、ついてんたんだな…そう思う事にする。

 例え今日、世界の終わりが来ても、幸せだったなと思えるように。

 

 手紙を貰ったんだ、そんな有名人から。

 だから返事を書いたんだ、相手は凄い人。

 自分なりにロマンチックに、情熱的に。

 馴れないものを頑張って書いたんだよ、この気持ちにはどんな言葉が入るだろうって。

 結局出さなかったけどさ、見られてたんだな。

 ラブレターだったのになぁ。恥ずかしいったらありゃしない。大好きだった『あの人』に送る予定だったラブレター。



「皆さん、この曲で【シアラ】はさようなら!です。以前お話した通り、私は遠く、遠くに飛び立ちます!これからはsharaが私に変わって頑張りますから!応援よろしくね!本当に、今までありがとう!それじゃあ最後はこの曲…『この夜を越えて…君に会いに行く』!」


 流れ星が降り注ぐ 太陽が歌い月が描く


 街はいつも残酷で それでも願いは流れてる


 拝み憧る媚びる感情を 憎み妬んでいたけれど 


 心の海 夜空に輝く幾千の 星と同じと思へば


 細やかな願いは 日々に流れていた事を知る


 君を思い出すたびに 千々に乱れるこの思い


 耐えきれず諦めきれず そっと離れたこの僕を


 何度も掴み求めてくれた 眩しく輝き燦めく君に

 あぁ、僕は 俺は 私は 君に 君に 君に


 何を返せるだろう? ただ伝えたかったんだ


 君に届くと良いな この夜を越えて 

 君に届けば良いな この手が届かなくても


 君の事を考えて 君といた毎日 想う日々は 


 ヘドが出る毎日の始まりも 煌めき輝くものなる


 君が与えてくれたから 夢も希望も絶望さえも


 例えどんな終わりでも 生き方を忘れても


 君がくれた日々が 生きる幸せ思い出す


 だから、だからさ、君に伝えたいんだよ

 

 君が 君こそが 私の全てなんだ 


 君に届けるんだ この夜を越えて

 君に届けたんだ だからこの手は▲□を掴んで離さない

 

 同じ気持ちだったんだ 確かめあった心の中

 君と私と僕と俺 今も昔もこれからも


―――――――――――――――――――――――


 身体は跳ね跳び、バイクは壊れ…それでも俺は望む。彼女に背負わせたくない。


 身体がちぎれた感覚がする。

 意識はあるけど力が抜けていく…間もなく死ぬ、そんな感じ。

 車から降りてきた…運転手も大怪我だな?

 降りてきたのは…サラか?何でそんな悲しい顔してんだよ?


 予知夢か分からんけど…もしかしたらシアに車で轢かれた夢もあったような気がする。

 でも、もう何でも良いや。どうせ死ぬんだし…


「先輩…何でお姉ちゃんと繋がっているんですか?あの歌詞を見た時…あの歌詞は先輩がお姉ちゃんに向けて送った歌詞ですよね?何度見ても私の入る隙間はありませんでした…そしたら私には…何もないんです…先輩が無くなったら…何もかも捨てて目指したお姉ちゃんのかわりにもなれません…どうすれば良いんですか?私は!?私は何のために!?」


 違うんだなぁ、サラ…違うんだよ…

 あの歌詞…あれはな…本当は…


 俺は最後の力を振り絞って…俺は懐から1枚の絵を出す…裏には手紙…大好きな…絵の。

 事務所の社長とやっててさ…それでもさ…

 それでも俺にとっては大事な…愛した後輩なんだ…ぜ…


「え?…これ…私の…何で…この絵を…」


「俺の…一番好きな絵…生まれ変われた…優しくなれた…俺の…憧れる…世界だ…から…」


 それは海の絵日記。

 サラと海へ行った、サラが描いたサラの世界。

 それはとても優しい世界。

 サラの世界に人はふたりだけ。俺とサラ。

 それ以外は動物…そして心無きもの…バイクや砂、海、飛行機…


「何で…なんでですか!?なんでぇ…全部知ってるって…私を見限ったって…そう聞いたのにッッ!裏?裏になにか…え?お姉ちゃんの歌ってた歌詞!?あの歌詞は…私…の事…そんな…」



―――あぁサラ…夜、サラと一緒に散歩するのが好きだった―――


―――月光の光に照らされたサラがいたから…夜を越えられた―――


―――2人でバイクに乗ってどこまでも この世界が愛しく見えるから―――


―――例えカラダもココロも離れたとしても この絵を見ると繋がった―――


―――俺だけのために ありがとう サラ―――



 『海と、繋ぐ王子と女の子』


 夏休みの海に行った時…サラの描いていたイラストの横にタイトルがあった。


 俺は王子なんかじゃないよ?でも、サラは月の姫の様に美しくなった…それでもサラを月へと行かせやしない…


 だから…海と、繋ぐ手の先は…誰でも無いんだよ…サラ…サラだけだ…




『 だから、君に届けるんだ この夜を越えて

 君に届けたんだ だからこの手はサラを掴んで離さない 』



 この命は軽かった。俺の命は軽かった。

 血縁はいない、だから俺が決める。

 血を残す必要はないと。

 俺にヒトの思いが乗るとすれば、それでも義母と義妹、隣の幼馴染家族、シア…数人だった。


 そこに乗った、重さが増した、この絵…この手は貴方の為にあると天才は言った。


 意味ができた…その意味がこの終りをくれたんだ





「ウアアアアアアアアアッッ!シェンパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアカアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!…



―――――――――――――――――――――――


 その日、歌姫シアラは海外へ飛び消息を絶った。


 その日から shara《シャラ》 という架空のキャラクターが、世間を賑わした。



 色んなシャラが歌う、踊る、語る。

 しかし二度と、オリジナルのシャラは更新される事は無かった。

 そして数日後…【釈華shaka】のクレジットはそっとこの世から消えた…

 

 これは、誰も変えられなかった場合の、ある一つの結末だ。

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