開戦

チームレジェンズ対チームルーザー

 TV視聴率五六パーセント。

 観客動員数二〇〇パーセント。

 場所は東京、国立競技場。二〇二一年に行なわれた東京オリンピック、パラリンピックのメインスタジアムであり、そのために有名な建築家が設計に携わり、約一六〇〇億円の費用を投じて作られた。別名、もりのスタジアム。

 周辺の明治神宮外苑内も含め、およそ一三万人の人々が集結していた。

『ただいまの時刻、午後五時五五分……開場からおよそ、一時間半! 会場よ! 外苑よ! 準備はいいか!?』

 会場全体が熱気で沸く。

 巨大モニターが各所に設置された外苑全体も盛り上がり、会場と外苑とが混ざり合って、調和していた。

『本来であるならば、九分九厘の勝率を誇るチームレジェンズと相対するは、御年二位の成績を誇る、チーム三国志でありました。が! しかし! 一人の男が名乗りを上げた! 俺達を抜きにして、始めるなかれと! チームレジェンズ総監督、ポラリス様はこの決闘を受諾! よってここに! チームレジェンズ対! 謎のチーム! ルーザーの戦いが実現したのであります!!!』

 会場はもう、熱気で沸騰寸前だ。

 戦う前からそうなってしまうのは、チームレジェンズが戦うからに違いない。が、より一層の熱量を増して盛り上がる理由の一つとして、名も無いチームの監督がわざわざ果たし状を叩き付けたと言う事実がないはずはなかった。

『そうして言葉を紡いでいる間にも、今、時刻は……六時! ジャスト!!! 故にこれより、チームレジェンズ対! チームルーザーによる! 転生者大戦一回戦を、始めるぜぇ!!!』

 熱気渦巻く会場に一つ、寒いくらいに冷えた場所あり。

 それはチームルーザーの監督待機場所。既にメンバーの召喚と順番の選出を終えた南條なんじょう利人りひとは、呑気にビールを飲んでいたが、隣でパソコンと向き合っていた女性は急に立ち上がったかと思えば、涙目になって南條の胸座を掴んだ。

「ねぇこれ、本当に勝てるの?! 勝てるの、南條くん?!」

「うるせぇなぁ。勝つ負ける以前に、面白そうだと思ったから、てめぇも一枚噛んだんじゃなかったのかよ。本当、てめぇにはもったいねぇ苗字だよなぁ、安心院あんしんいん

「別に僕が好きで付けた訳じゃないから! それよりこれ! 本当に大丈夫?! 相手のデータ見て絶望しかしてないんだけど! 本当に大丈夫?!」

「うるせぇなぁ、黙って見てろ。真のエンターテインメントって奴を、凡々人共に教えてやるんだよ。今日、ここでなぁ」

『さぁまずはチームレジェンズの先鋒をご紹介……先鋒を務めるのは、こいつだぁ!』

 入口から、西洋甲冑に身を包んだ兵団が行進して来る。

 盾に剣が描かれた赤い旗を立てた彼らは一斉に鞘から剣を抜き、対面する相手と擦り合わせるようにぶつけると高々と掲げて、盛り上がり続ける会場の熱気を貫いた。

『伝説は、選定の剣より始まった! 螺旋の丘まで常勝無敗! 湖、太陽、嘆き、叛逆の騎士ら、円卓を従えた騎士の王! 歴史上最も有名な聖剣の使い手にして、最も有名な槍の担い手! ナイト・オブ・ナイツ! チームレジェンズ、必勝の先鋒! アーサー・ペーンドラゴォォンっっっ!!!』

 チームレジェンズとっておきの先鋒。

 騎士の中の騎士と名高いアーサー・ペンドラゴン。

 金髪碧眼。白い肌に若干尖った耳と、物語に出て来るエルフを思わせる外観に、名前だけでも誰もが知る聖剣と、一度以上は聞いた事があるだろう聖槍を武装して現れた。

 整った顔立ちに抜群の知名度とあって、男女問わず人気が高い。

「ケッケッケ! やっぱりアーサー王か」

「本当、あいつで大丈夫なのかなぁ」

「だから面白いんだろ? まぁ見てな」

『そして、勝率十割の騎士に挑む馬鹿! 基、チャレンジャーは、こいつだ!』

 覇気を纏って行進して来た騎士らと違い、忍者の様な静謐な足取りで登場した剣士らは、その場で深く首を垂れ、片膝を突く。

 その背には等しくの一文字が書かれており、日本人なら見ればすぐさま思い浮かぶ隊の存在が、会場全体の脳裏に過ぎった。

『一八六三年、二月五日。将軍警護の名目で召集された浪士組に参加し、江戸にてその後の戦友らと合流! 後に新選組と呼ばれる事となる壬生浪士組のかしらを務め、その剛胆さと神童無念流剣術免許皆伝の腕で、浪士達をまとめ上げた! あまりの傍若無人さと凶暴性から、仲間達によって暗殺されたこの男! もしも生きていたのなら、新選組は、血塗られた組織であっただろう、曰くの統率者! 芹沢せりざわぁ、かぁもぉぉぉっっっ!!!』

 会場の誰もが思った。

 新選組ならば、もっと他にいただろう。

 病に悩まされながらも天才と謳われた沖田おきた総司そうじ

 鬼の副長と恐れられ、最後まで新選組で在り続けたという土方ひじかた歳三としぞう

 そして、鴨の後釜として新選組を束ね、新選組局長ならばと名が挙がる様になった豪傑、近藤こんどういさみ

 何故この男なのか。

 高身長かつデップリと太った巨漢に、色白の体はまるで豚。担ぎ上げて飲んでいるのだろう酒のせいで体臭も息も臭く、まるでオークを見ているかのよう。

 よりにもよって何故、この男が選ばれたのか。入口から入って来た巨漢を見た、誰もが思った。

『さぁ、両雄が揃った! チームレジェンズ対チームルーザー、第一試合――アーサー・ペンドラゴン対、芹沢鴨……開戦ファイッ!!!』

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