第53話 2015年 ~あなたは、へヴィメタルを愛していますか?-13

 ゆっくりと上空を旋回していたドラゴンが、ひときわ大きな咆哮を上げ、そして、こちらへその顔を向けてきた。まるで睥睨するような黒い眼差しは、こちらの精神を完膚なきまでに打ち据える。

 もう一度、吼え、そして、降下を開始した。

 クルミとミツキが、身構える。だが、その表情には悲壮感が浮かんでいる。

 おれは唇を噛み、そして最後のあがきをするべく、メイスを掲げる。

 と、その瞬間。

 ぐら、と視界が揺らいだような錯覚を覚えた。

 揺らいだのは、視界ではなく、ドラゴンの方だった。

 片側だけの羽を必死で羽ばたかせて、なんとか体を宙に浮かせている。

 何が起こったのか、とあたりを確認しようとしたその矢先、ひゅっという風を切る音が耳に届いてきた。


 はっとして、もう一度ドラゴンへと目を向ける。

 ――弓矢だ。

 もう一本、ひゅるっという、音とともに、ドラゴンの羽に矢が突き立つ。ハイトーンの悲鳴とともに、急降下してくる。それは今までとは違い、意思のない、落下だ。

 屋上、メタルマスターと自ら名乗った剣の目の前に、エメラルドドラゴンの体が振ってくる。地響き、そして、断末魔のような叫び。

「今だ! その剣でとどめを刺すんだ!」

 どこかから聞こえたその声に、はじかれたようにクルミが地面を蹴る。

 ミツキも後から続く。

 体を横たえたままのドラゴンは、それでも吼えた。その姿は雄々しく、そして痛々しい。

 クルミの剣が、その眉間に突き立った瞬間に、勝敗は決した。

 全身が緑色の光に包まれたエメラルドドラゴンは、急速に縮んでいき、そして、一本の剣に変わった。柄に光沢を放つエメラルドのドラゴンがあしらわれた、細身の剣。

「エメラルドソード」

 その言葉は、背後から聞こえた。

 振り返る。

 と、そこには、見たことのない青年が立っていた。

 その手には弓を携えている。

「ひょっとすると、君も二者択一問題に答えて、ここまで来たのかい?」

「ああ、そうだ。メタルマスターに会い、そしてへヴィメタルウォーリアーの称号を得るため、ここまで来た……まさか、先客がいるとは思っていなかったが」

「そうか……助かったよ」

 おれが手を差し出すと、青年もすぐに手を握り返してくる。

 クルミとミツキも、すぐに駆け寄ってきて、青年に礼をいい、そして抱擁を交わす。

 四人は、まず、ドラゴンから変化したエメラルドソードへ近寄る。クルミが手を伸ばし、持ち上げる。

「軽い……これ」

 そして次に、メタルマスターのほうへ、足を向ける。

 クルミはそのエメラルドソードをミツキに手渡し、今度は銀色に輝く剣へ手を伸ばす。

 メタルマスターにクルミの手が触れた瞬間、今まで七色に輝いていた台座が、砕け散った。そして、その手の中に剣だけが残った。


 ――ヨクゾ、ワレヲ、カイホウシタ、ユウシャタチヨ……


 クルミは何かに導かれたかのように、天高くその剣を掲げあげている。

 おれは、クルミの手に、そっと手をそえる。

 続いて、ミツキも、弓矢の青年も、手を掲げ上げて、メタルマスターに手を添える。


 ――キミタチヨニンニ、へヴィメタルウォーリアーノショウゴウヲサズケル……


『ヘヴィメタルウォーリーアー』という全周波数のフレーズが、いつまでも耳の中で鳴り続けている。

 どこかから、ずん、だん、ずずだん、と、重厚なリズムが聞こえてくる。

「いついかなるときも我々は……」

 四人、全員の声がユニゾンする。

「全ては、へヴィメタルのために」

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