序 2007年 ~ライナーノーツ

【某編集者Mによる解説】


 実際には二〇〇四年にはこのアルバムは完成していたらしいのだが、様々な経緯によりこうして形になったのが今になってしまった。当然、ここまであからさまにヘヴィメタルであることを銘打ったアルバムを公式にリリースするわけにはいかない。これを読んでくれている方々も、友人経由で極秘に借りていたり、ライブハウスにこっそりと置かれているものを手に取ってくれた人なのだろう(その分、僕の原稿料も寸志ということになってしまうのだが、僕にとってはお金の問題ではないのだ!)。


 さて、このアルバム『キング・オブ・メタル』。前例にならったのかは定かではないが、一枚目のアルバムということで、アーティスト名とバンド名を同じくしている(ただ、これが最初で最後のものとなってしまうのだが)。メタル愛好者の間では半ば伝説のように語り継がれているこのバンドについて、僕が知りうる限りここで披露したいと思う。が、その前に、諸氏にとっては釈迦に説法になってしまうかとは思うのだが、まずは今のこのヘヴィメタル界の状況(惨状、というのが正しいか……)がいかにして形成されてしまったのか、そのことを振り返ってみたい。そうすることで、奇しくもその流れの一端を担うことになってしまったこのバンドを紹介することにもなるだろう。


 一九九五年、北欧スウェーデンであの事件が起こったときのことを、僕はまだ、昨日のことのように思い出す。正直なところ、当初から危機感をもっていたメタル関係者はごくごく限られていたように思う。しかし、事件の様子は瞬く間に世界中に伝わり、そしてあの忌まわしきイエテボリ条約へと繋がることになるのだ。それが日本の社会法としても落とし込まれることになる。それが『ヘヴィメタル及びそれに準じる音楽の演奏及び視聴に関する法律』――いわゆる『メタル禁止法』だ。


 悪夢、といってしまっては軽すぎる。それではまるでポップミュージックだ。僕はそう思う。狂気、愕然、呆然、憤慨、どれも違う――冒涜、が一番しっくりくる。

 そうなのだ。これはメタルの神に対する冒涜だ。人類のごとき下賤の民が、神の音楽であるヘヴィメタルを禁止するなど、本来あってはならないことなのだ。金属の雨だかなんだか知らないが、東欧でのヘヴィメタル症候群とヘヴィメタルは何ら関係がない。僕はここでそう宣言したいと思う。


 ちなみに〈キング・オブ・メタル〉の大阪でのライブ中に起こったあの事件は確かにスウェーデンでの事件と酷似している。なんらかの関係性があるといわれても反論しようもない。

 しかし、だ。僕は敢えて「だからどうした」とそう声を大にしていいたい。もう一度言おう。ヘヴィメタルは神の音楽なのだ。人間の基準によりその是非を問うなどということなど、あってはならない。関係者にはいずれ神の鉄槌が下されるだろう。僕はここにそう予言しておこう(少し熱くなってしまった。しかし、これは間違いなく僕の、そしてメタル愛好者達の心の叫びだ)。

 

 前置きが長くなってしまった。

〈キング・オブ・メタル〉の解説に戻ろう。と、思ってはいるのだが、このバンドについてはいかんせん情報が少ない。わかっているのは、メンバーが、ボーカル、ドラム、ベース、そしてギターが二人(象徴的なジャケット写真にもなっている、男女の二人だ!)の五人であること、そして、当時彼らがまだ大学生であったということぐらいで、名前すら判然としない。

 前述した事件の中心人物であり、プライバシーの観点で仕方がないところもある。かくいう僕自身も、名前を明かすわけにはいかない事情もあり、そのことに対して追及する筋合もない。しかしいつか、ヘヴィメタルの濡れ衣が晴れて公の場に堂々と出られるようになった暁には、この〈キング・オブ・メタル〉にもその姿をメディアに見せてほしい。そして……これは僕のお願いなのだが、出来ることなら再結成し、もう一度この宝石のような名曲達を、ライブで僕に聞かせてほしい。そう切に願いたくなる。それほど、このアルバムは素晴らしいのだ。

 

それでは一曲ずつ、曲の紹介をしていこう――……。

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