第4話 持ち主探し1

 次の日から、貴士と勝輔は星型ウォッチの持ち主探しを始めた。

 まず、去年の文化祭でマジックショーを出してきたクラスへ行き、マジシャン役を演じた生徒に聞き込みをした。

「あー、あの時の女子な。いや、名前はわかんねー。けど、学年はわかるぜ。俺らと同じ二年だ。腕に文化祭実行委員の腕章を巻いてたからな。あれをやるのはウチの学校じゃあ二年生って決まってるからな」

 まずはこれで、全女子生徒の三分の一に絞り込めた。で、そっからどうするか?

「これはもう、一組から順番に当たっていくしかねえわな」「だな」

一学年あたりに九クラスあり、貴士は二組、勝輔は三組なので、その二クラスを引くと、調べるのは七クラスとなる。

「ああ、その時計なら見たことあるぜ。八組に俺と同じサッカー部で早川ってのがいてさ、そいつの隣の席の女子が確か持ってたぜ。名前? 今日、部活終わりに早川に訊いといてやるよ。明日また来な」

「おお、そうか」

「サンキュー」


「緑川圭子」

 それが、貴士と勝輔が学校内を調査し、三日目に突き止めた、例の時計の持ち主の名前だ。二年八組、情報提供者によると、「あの子、けっこうイケるぜ」とのことだった。

 放課後、帰り支度中の圭子を貴士と勝輔は訪ねていった。

「あの……、あのさ、ちょといいかな」

「えっと、君、緑川さん、だよね?}

 至近距離の背後から突然、貴士と勝輔に声を掛けられて、圭子は軽く驚きながら、ふたりの方へ振り向いた。「え⁉ なんですか」

 少し不安げな表情で圭子は出迎えた。小柄で控えめな、おとなしい感じの女子生徒だ。情報通りだなと、貴士は思った。ショートカットがタイプの貴士にとって、そこが合致しているところも好印象につながった。貴士のポイント高し、である。

「え、えーっと、ゴメン突然声なんかかけて。あの、俺たち、別に、そんなに怪しい者たちじゃなくってさ、けど、もし、怪しいなと思われても、ほんの少しだけだから大丈夫だよ。俺は二組の今村。今村貴士。で、こいつは三組の松木勝輔っていう、身体の大きな高校生。巨体であることが彼のストロングポイントです」

「身体の大きな松木です。まったく怪しくありませんのでよろしく。ちょっとお話があって、来ていまーす」

 勝輔はニッと笑った。

 微妙にしどろもどろな自己紹介をした貴士と、まるで似合っていない笑顔で挨拶をした勝輔という、二人が醸し出したほわッとしたコミカルさで、圭子は右手の甲を口もとに寄せ、くすり、と微笑した。「じゃあ、あたしも自己紹介しなくっちゃね。そうですあたしは緑川圭子です。今村君、松木君、よろしくね」

 少し話し合っているうちに、緊張気味だった圭子の表情はじきにほぐれていった。貴士は妙に人懐っこいところがあり、圭子もすんなりそのペースに混ぜ込まれたのである。

 三人は一緒に校門を出て、駅前のバーガーショップに入っていった。

 テーブルでは男二人が並んで座り、圭子は貴士の正面に着席した。チョコ、バニラ、ストロベリーのシェイクがそれぞれの前に、それと、ポテトのラージサイズが一つ、テーブル中央のトレーに中身を広げて置いてある。

「お話って何ですか。あ、ふたりともお腹が減っているでしょ。ポテト食べてね」

 圭子は言って、バニラシェイクを手に取った。ポテト代は圭子持ちのようだ。

「うん。じゃ、遠慮なしにいただきまーす」

 貴士はニコニコ顔で一つまみしたポテトを口に放り込み、話す。「実はね、……」

 もぐもぐごくりと飲み込んで言った。「これ、緑川さんのじゃない?」

 それから、制服の右ポケットからライトブルーの星型ウォッチを取り出し、圭子の方へ差し出した。

「どれえ」  

 圭子は手渡されたものを見た。「そう、これ、確かにあたしのものだわ。でも、どうして……」

「ん?」

「ねえ、これ、どうしたの。どうして今村君が持ってるの」

 圭子が訝しげに訊いた。

「拾ったんだ、白城スーパーパークの前で」

 貴士は答え、手に持ったチョコシェイクのストローを口に咥えた。

「そう。でも、よくあたしのだって分かったわね。ありがとう」

「ま、偶然それに見覚えがあってね。緑川さん、去年の文化祭でマジシャンにそれ渡したことがあったでしょ。その時、俺見てたんだ。な、勝輔」

「……」

 勝輔は無言で首をこくりとさせて頷いた。今のところ、勝輔は一言もしゃべっていない。代わりにポテトをぱくぱく食い、シェイクを飲んでいた。貴士が圭子と話したがっていることに勘づいたからだ。勝輔なりの、男の友情。

「緑川さん、この時計、もしかして誰かに貸してなかった?」

 貴士が訊いた。

「ええ、そうよ。友達の女の人に……」

「やっぱり。で、その人って、清麗女子大学の人?」

「あれえ、どうしてわかるのー」

「うん、……」

 貴士はストローを一度強く吸い込んで、「今から話すことを、びっくりしないで、落ち着いて聞いて欲しいんだ」と言った。

 そして、一週間前の電話の混線のことから話し始めた。

 

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