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 試験会場を後にしようとしたミニバラは、スマホなどとは違うガジェットの端末から何かが届いているのを確認した。


「これで本日の試験は終わりです。合格結果はガジェットの方に送りましたので、そちらをご確認ください」


 あの人物が言及した言葉のニュアンスが、何か微妙におかしいように感じられた。本来であれば『送る』のはずが『贈る』と聞こえたからである。


 審査員などはアバターの類にも見えたので、もしかすると……ハッキングなどでおかしくなっていた可能性は否定できない。


 それでも、細かな部分を気にすることなく、この日のミニバラは帰宅する事にする。



 数日後、この日は平日なのだが……霧の内部は普通に人が出歩いており、これで何か異変があるという意見がある事の方がおかしい、という状況だった。


『一体、何が起こっているのか』


 ミニバラの方はインナースーツにメットを装着した状態で歩いているのだが、それを指摘する通行人はいない。


 慣れているというよりは、あえて関わりを持ちたくないという事でスルーの方が有力か?


 その状況下で、しばらく散策を続けていると、上空から何かが迫っていることに気づいた。


 メットのレーダーには反応しており、これが敵という事だろう。しかし、ここで戦闘行為を行えば、明らかに周囲から不審車と思われる。


 一体、どのような反応をするべきなのか……ミニバラは、メットのバイザー部分に表示されたあるものを見て察した。


『パルクールランナー……そういう事か』


 ミニバラの声は周囲には聞こえておらず、通行人もドローンに気づいた人物はいない。


 ここまでくると、霧の中で起こっている出来事に目を背けている、と思われても仕方がないだろう。



 ドローンの方は通行人には見えておらず、自分にだけ見える仕組み……と考えると、ドローンにステルス迷彩の類が実装されている可能性もある。


 その一方で、ドローンに重火器などは装備されていないため、そうした目的で作られたわけではないようだ。


 それでも、ドローンが1つだけでなく複数飛んでくる後継を通行人が気づかないのは……よほどのケースだろう。


【表示されたコースを進み、あのドローンから逃げきれ。ドローンにレーザーを撃たれれば終わりだ】


 バイザーに表示された謎のメッセージ、明らかにミニバラへ向けたものであり、ドローンがそういう存在だという事を認識した瞬間でもある。


【コースに関しては表示されているものであれば、他のコースを使う事も可能だ。しかし、それ以外のコースは使えないぞ】


 ミニバラがコースマップをチェックしつつ、周囲を見回し、走り始めようとするのだが……生身で走るには体力の消費もあって、無理ゲーにも見えなくもない。


『これは、まさか……?』


 その時だった。バイザーに表示されたポイント、そこへ行けば何かがあると分かったのは……走って、該当ポイントに到着した数十秒後である。


【パルクールアーマーを転送します】


 この表示がバイザーに出てしばらくが経過すると、インナースーツ姿だったミニバラに各種アーマーが装着されていた。


 これが試験でも使用したパルクールアーマーという事になるのだが、色がグレーを思わせるような感じであり、何も機能していないようにも見える。


 もしかすると……と思い、右腕に装着していたガジェット端末を起動させると、グレーのアーマーが発光しだす。つまり、ゲーミングアーマーとでもいうべきか。


 SNS上で言及されたアーマーを装着して走るパルクール、その正体がこれだったのだろう。


 そして、情報を入手する為に彼女は走り出した。

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