第4話 逃せば ~ Nakamori said if you miss ~

「本学園では5月20日からイベントを開催する事にしている。そのイベントの勝者は1つ願いが叶う。そしてその願いに恋人を求める者には特別な祝福ギフトが与えられるだろう」


 校則の中にそんな文言が収められている、私立森林之木学園特別高等学校。

 この学園に「特別」の文字が付けられているのには理由がある。


 それは……



「ねぇ、聞きまして?」


「3年C組の木谷さんと、同じクラスの小林くんの話しですの?」


「違いますわよ。3年B組の木鉢くんと、3年A組の宇津木さんの話しですわ。あのお2人って別れたらしいですわよ?」


「えっ?!だって、2人ってあのイベントの時の……」


「周りにはそうみたいですけど、別れてしまったのなら実はのですわよ、きっと」


 これはイベント後に起こる、よくある「噂話」の1つだ。メインイベントの優勝者は最終的には1人に絞られるのだが、校則に於いては「勝者」としか記載されていない。拠って、きっとそこに落とし所があるとうそぶかれ噂されているのだ。

 しかし、この学園のメインイベントに於いて、優勝者が今まで「恋人」を手にしたとされる記録はないので、校則の真偽は確かめられていない。だからこそ、噂話好きには垂涎モノの内容と言えるある種この手のネタは直ぐに広まるし、噂は噂を呼んで尾ヒレ羽ヒレが付きまくる事もザラだった。

 まぁ、そんな噂話の矢面に立たされた生徒の末路は、考えるべきではないだろう。




 5月17日は生徒会活動が無い日であり、生徒会役員達は個々で様々な行動をしていた。部活に行く者、塾に行く者、噂話に興じるモノ、家に帰ってゲームに没頭する者……そんな中で森之木稜真りょうま生徒会長はメインイベントに向けて着々と準備をしていた。



「今日は活動が無い日のハズだが、1人で生徒会活動か?」


「ッ?!」

「なんだ、木之下先生ですか……驚かさないで下さいよ」


「何も驚かすような事を言ったつもりは無いんだが……しかし驚くって事はやましい事でもあるのかな?ふふふ」


「そんな事、あるワケないじゃないですか。今日は他の役員が来ないので1人の方が集中出来るから生徒会室に来ただけですよ」


「まっ、モノはいいようだな。さて、森之木生徒会長1つ私と勝負しないか?勝ったらキミが望むモノをあげよう。別に私のカラダでも構わないぞ?」


 自称美人教師の木之下夕樹菜ゆきなは生徒会室の机に座るとタイトなミニスカートから伸びるスラっとした白い足を組み、妖艶な顔付きで森之木を見詰めていた。そしておもむろに自分の着ている上着ジャケットを脱ぐとブラウスのボタンを1つ1つ外していくのだった。

 上から3つもボタンが外されれば豊満な胸元ワガママバストが、これでもかと露わになっていき、上気して桃色に染まった白い肌が曝け出されていく。


 そして、木之下は足をゆっくりと組み換えていった。




5月18日



「おい、聞いたか?今日、木之下先生学校休みだってよ?」


「マジかぁ……今日の数学をスゲぇ待ち望んでたのに……。俺の燃え滾って熱いのをどうすればいいんだぁ」



「はぁ、これだから男子共は……。同じクラスにいて同じ空気を吸ってる事ですらイヤになりますわね」


こずえちゃんは、本当に男嫌いだよねぇ。それよりもどうなのどうなの?男嫌いの梢ちゃんが夢中になってる男の子」


「ッ!?くぁwせdrftgyふじこlp……」


「もう、ホンッとに昔から分かりやっすいなぁ。まぁ、それが梢ちゃんのイイトコなんだけどね?まっ、アタシとしては、梢ちゃんにカレシが出来てもたま~にッいいんだけどね」


 副会長の小森に話し掛けて来たのは同じくSクラスで幼馴染の鉢巻はちまきかえでであり、森園に次ぐ体育コープス2位でSクラス入りを果たした体力馬鹿だ。そして、梢は楓のにされる事がよくあり、今もまた楓に背中を一本指でスススっとされた後に、揉みしだかれている。



「はうぅ……あんっ。こ、コラッ。それは学校で……じゃなかった。こ、これ以上何か余計な事を話しても……余計な何かをしても怒りますわよ?幼馴染のよしみで今ならまだ、怒らないで差し上げますけど、それ以上余計な事をすればいくら楓でもタダじゃ済ましま……あぁんっ」


「まぁまぁ、そんなに怒らないで梢ちゃん。どうどう」

「あ、そだそだ!梢ちゃん、パット盛りもりにしてると、気になるから速く走れないでしょ?アタシとしては、見せ掛けの大きさよりも小さくても感度良好な梢ちゃんが好きだよッ。それじゃ梢ちゃん、あばよーッ」


「ハッ。かぁ~えぇ~~でぇ~~~ッ待ちなさい。待つのですわッ!絶対お仕置きしてあげるのですわッ!」


「あはははは~。大丈夫じょぶ、ちゃんとパットは返すってばぁ」


「えっ?!ウソ……いつの間に?」

「イヤあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ」


 梢は逃げる楓が撒き散らかしたパットを急いで掻き集めると、トイレへと駆け込んでいった。


 そして、Sクラスの男子達の間で噂話として始まった先の2人のやり取りは、瞬く間に全校生徒へと広まっていくのだった。



「まったく逃せばこうなると決まっているのに」

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