第9話

彼女にとっては、

突然の出来事で頭が混乱していた。


両親と彼は普通に会話していて、

彼も

予定がどうとかなんとか言っていた。


両親は


「折角来て頂いたんだ、

少し部屋で話をして来なさい。」


と彼女の肩を軽く叩いて

リビングへと戻って行った。


両親が連絡を取って、

会う約束をしてくれた事に

初めて気付くと


「ありがとう…」


小さく震える声で答えた。


彼を部屋へと案内してから

自分の姿を鏡で初めて見た。


「こんな姿で!!!」


彼女は一気に顔を真っ赤にして


「ちょっと着替えるから待ってて!!!」


と急いで支度をしようとしたが


「1時間しか時間が取れなかったんだ。

気にならないからそのままで大丈夫だよ。」


と優しく伝えてくれた。


「相変わらず優しいんだね…」


とまた後悔が襲って来た。


「早速だけど、何かあったの?

疲れているみたいだけど、

嫌じゃなければ聞かせてくれる?」


と言ってくれた。


「………………」


彼女はゆっくりと息を吐き話始めた。


別れてからのすぐの事

仕事に打ち込んでいた事

仕事で失敗をした事

失敗を同期の彼が

フォローし助けてくれた事

その後同期の彼と正式に付き合った事


そしてあの日見た出来事を


「同期の彼は、

わたしに嘘を付いて浮気していたの。

慣れてる感じだったから

前から続いていたと思う。

その時感じた気持ちが

耐えられないくらい辛くて

ショックで何も考えられなかった。

でもわたしがあなたにした事って

全く同じだった。

同じどころかもっと酷くて、

浮気して抱き合っている姿まで見せていた。

こんなにも酷く残酷な事だったんだって

初めて気付いたの…」


彼は何も言わず黙って聞いていた。


「そのまま逃げるように実家に逃げ込んで

引き篭もった。

毎日あの日の事

あなたの事を思い出して

後悔して後悔して

それでも何も出来なくて…」


「謝って済む事ではないってわかってます。

今は本当の意味であなたの辛さ、苦しさが

絶望がわかりました。

本当に申し訳ありませんでした…

それなのに

またあなたに甘えて

助けて貰おうとしている。

どうしようもないわたしでごめんなさい。」


彼女は泣きながら

頭を床に擦り付けて謝って来た。


「俺との事は終わった事だし

もう何も思って無い。

とっくに許してるよ。

だから顔を上げて。」


彼は優しく語りかけます。


顔を上げようとしない彼女に


「甘えたい時は誰にでもあるよ。

辛くて寂しくてどうしようもない時だって

これからもたくさんある。

でも時間は戻せないし、

過去も変えられない

未来だってどうなるかわからない。

だからって終わった訳ではないんだよ?

君には心配してくれる両親がいる!

俺の連絡先を色んな方にお願いして調べて

連絡してくれたんだ。

携帯も見てないと思うけど、

会社の人からも

たくさんメッセージが入っているはずだよ!

君が歩んだ人生は、俺たちだけじゃなく

色んな人達と関わって絡みあって

今があるんだよ!

だからさ…また少しずつ前に進もう?

今までも出来たんだから

これからだって出来るよ!

ゆっくりでいい…

自分のペースを見つけて

前に進んで俺が好きだった頃の君より

もっといい女になって

俺と同期の男を見返してよ!

こんないい女を逃したのかぁ!

てね笑

君ならきっと出来るよ!

大丈夫だから…」


と励まし、勇気付け、


「また前を向いて生きていいの?」


と思わせてくれた。


ゆっくり顔を上げ、

彼の顔を見た。


彼は恥ずかしそな顔で


「ちょっとキザだったかな。笑」


と言って笑った。



思わず彼の胸に抱き着いてしまった。


彼はびっくりしていたが

何も言わず

そっと頭を撫で続けてくれた。


「はっ」


と思い彼に謝りすぐ離れた。


離れた途端急に恥ずかしくなり

耳が真っ赤になった。


彼が優しい笑顔を向け


「もう大丈夫そうだね!」


と言って


「そろそろ行くね。」


と言って来た。


彼に伝えたい事がたくさんある筈なのに

何も言葉が出てこない。


「本当に良いご両親だね!

大事にしないとね!

あと、

メッセージもたくさん来ているだろうから

しっかり返信するんだよ!」


と言って立ち上がった。


「本当にありがとう…」


そう言ってぎこちない笑顔で応えた。


彼はそのまま両親の所に行き

軽い挨拶を交わして玄関に向かった。


彼がくる前とは気持ちが全然違った。


上を向けた。

だから玄関のドアに手を掛けた彼に


「またね!」


と言えた。


すると彼も、満面の笑顔で


「またね!」


と応えてくれた。



彼が帰った後、

両親にも今までも出来事を全て伝え

謝り、

しっかりとお礼を告げた。


メッセージもたくさん来ていて、

全て返すのに

たくさん時間がかかってしまった。


ただ、気持ちが全然違った。

前を向けていた。


「また助けて貰っちゃたな…

感謝しても仕切れないよ…」


嬉しいのか

寂しいのか

切ないのか

良くわからない気持ちだった。


すーっと涙が流れた。


今までのか涙とは違い

笑ってしまう様な涙だった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る