第5話

「最後のお願いを聞いて欲しい」


涙を流し震えた声で彼女が伝えてきた。


「最後に少しだけ…少しだけで良いから

抱き締めて欲しい。」


彼は、戸惑いながらも最後のお願いだからと


「今まで一緒に居てくれて本当にありがとう。

凄く幸せだったし、

一緒にいられた時間はとても楽しかったよ。」


そっと抱き締めました。


彼女は何も言わず自分の腕を彼の腰に回して

ぎゅっと抱き締め返しました。


「なんて安心するんだろ」

「わたしはなんて馬鹿なんだ」

「こんなに優しくて、一緒居て安心出来る人なんていないよ」

「辛い、

離れたくない、

ずっと一緒にいたい、

このままずっと抱き締めていて欲しい」


心の中で思い、願っていた。


しかし、

彼がそっと腕を戻し

彼女の肩を掴んで離れながら


「これから一緒に歩んではいけなくなるけど

君の幸せを心から願っているよ。」


彼は最後の言葉を伝えて彼女から離れた。


彼女は


「ありがとう。」


と、涙を堪えながら笑顔で伝え

彼の部屋を後にした。


自分のアパートまでの帰り道は、

只々辛かったが

必死に堪えて帰った。


部屋に着き、

ベットに転がり枕に顔を埋めて

声を出して泣いた。


子供のように大声で泣いた。


本当に大切で掛け替えのない存在だったと、

彼とずっと一緒に居たかったと

後悔、

惨めさ、

悲しみ、

辛さ、

色んな感情が巡り

最後は彼の笑顔を思い出し

少しだけ幸せな気持ちになれた。






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