第23話

「何でてめぇがここにいるんだよ!」


 ……のっけからこれだもんなあ。


 クロードについて『魔獣の森』の入り口に来ると、アレスの仲間たちがいた。そして彼らが僕たちを見て口にしたのがさっきの言葉というわけだ。


「……クロード」

「わかってます。説明するので少し待ってください」


 クロードが仲間達のもとに言って事情を説明する。


「カイにアレスの捜索を手伝ってもらう……? ふざけんじゃねえ、何であんなカスの手なんて借りないといけねえんだ!」


 『戦士』の男が喚く。口には出さないけど、他の仲間たちも不満そうな反応だ。


「むっ……」

「何よあいつら。せっかくカイが手伝ってあげようとしてるのに」


 その態度にエルフィとルーナも剣呑な雰囲気を発する。


「我慢してください。カイは『狩人』ですから必ず捜索に役立ちます」

「はっ、冗談じゃねえ! いくら人探しに使えるからって『狩人』なんぞに頼み事なんてできるかよ!」


 この連中、アレスが僕に模擬戦で負けたことを覚えてないんだろうか。


 彼らが『狩人』を見下すのは習性みたいなものかもしれない。


「いい加減にしなさいよあんた!」


 我慢の限界を迎えたルーナが『戦士』の男に食ってかかる。


「ああ? 何だこのガキ」

「カイは頼まれたから仕方なく来てあげたのに、何でそんなに偉そうなのよ!」


 『戦士』の男は不愉快そうに顔を歪ませる。


「フン、カスをカスと言って何が悪い!」

「……まだ続けるならぶっ飛ばすわよ」

「ははは、やれるもんならやってみ――」


 そこで『戦士』の男は顔色を変える。


 正確には、ルーナの背負う巨大な両刃斧を見て。


「な、なんでお前がその斧持ってんだ!?」

「武器屋で買ってもらったわ! それが何よ!」

「嘘だろ、あれをこんなガキが持てるはずが……!」


 何やら驚愕しているらしい。


 ……あ、そういえば店主は『街一番の『戦士』でも持てなかった』って言ってたっけ。

 もしかしたらそれが彼なのかもしれない。


 自分が持てなかった超重量の斧を軽々背負うルーナを見て愕然とした、とか?


「ふ、ふん……今日はこのぐらいにしといてやる……」


 ダラダラと冷や汗を流しながら『戦士』が言う。


「二度とカイの悪口言うんじゃないわよ!」

「わ、わかったよ」


 『戦士』が完全に負け犬っぽくなってしまった。


 ルーナが得意げに戻ってくる。


「カイの悪口言ってたから黙らせてやったわ!」

「庇ってくれたんだね。ありがとう」

「えへへ」


 頭を撫でるとルーナが嬉しそうな顔をした。

 やりとりを見ていたクロードがこんな提案をする。


「……二手に分かれましょう。我々『赤狼の爪』が森の東側。カイたちが西側を捜索します」

「なるほど」


 この調子では僕たちと『赤狼の爪』が一緒に行動するなんて無理がある。


 別行動すれば、捜索効率も上がるし一石二鳥だ。


「連絡用の魔石も渡しておきます。何かあればこれで伝えてください」

「わかった」


 クロードから魔石を受け取り、僕たちは『赤狼の爪』と分かれて森の西側に向かうのだった。

 




「さっきのやつらはカイとどんな関係なの?」


 『赤狼の爪』と別れた後、ルーナがそんなことを尋ねてくる。


「まあ、元仲間というか」

「どういうこと?」



 僕はルーナに事情を説明した。



「何よそれ! ちょっとあいつらとっちめてくる!」

「待って待って落ち着いてルーナ!」

「そうですねルーナちゃん。一緒に行きましょう」

「エルフィは止める立場だよね!? 何で来た道を引き返そうとしてるの!?」


 『赤狼の爪』の元に取って返そうとする二人を慌てて止める。

 気持ちは嬉しいけどここで騒ぎを起こすのはまずい。

 魔物が寄ってくる可能性もある。


「だって、あいつら酷いじゃない! カイは頑張ってるのに裏切るなんて!」

「そうですよ、カイさんは悔しくないんですか!」


 見るからに不満そうな顔で問い詰めてくる二人。

 エルフィに関しては、模擬戦の一件以降彼らへの鬱憤が溜まっていたのかもしれない。


 僕はせめて誠実に答えた。


「……『狩人』なんて職業だとね、あのくらい日常茶飯事なんだよ……他の冒険者も似たような扱いをしてくるし……」

「「……」」

 

 思い出されるのは冒険者になって以降の悲惨な日々。荷物持ちや雑用をやらされるのは当たり前、酷い時は報酬なしなんてこともあった。


 何ならアレスたちはちゃんと報酬をくれる分マシな部類だったりする。


「ルーナちゃん、私たちはカイさんに精一杯優しくしましょうね……」

「そ、そうね。カイ、あたしたちは味方だからね!」


 あれ? なんか同情されてない?

 そんな感じで情報共有しながら進んでいくと。


『ガァアアアアアッ!』


 魔物が現れた。

 全身を毛に覆われた巨大猿の魔物、『キラーコング』だ。


「あたしがやるわ!」

「ルーナ!?」

「力試しがしたいのよ! 二人とも手を出さないでね!」


 ルーナがそう言って前に出る。

 上級職の『重戦士』だし、大丈夫……かなあ?

 一応すぐに援護できるように『ラルグリスの弓』は構えておく。隣ではエルフィが緊張した顔でルーナを見ている。


『ゴァアアアアアアアアアッ!』


 キラーコングの攻撃。

 圧倒的膂力による拳の叩きつけだ。鉄板すら曲げさせるほどの攻撃を、何とルーナは片手で受け止めた。


『ガアッ……!?』

「大したことないわね!」


 ルーナが勢いよく拳を振り払うと、キラーコングは体制を崩されてたたらを踏む。

 その隙にルーナは両刃斧を抜き放つ。


「今度はこっちの番っ!」


 ザンッッ、という音。


『ガ、ア……ッ!?』


 逆袈裟に薙がれた両刃斧はキラーコングの胴を一撃両断していた。

 噴水のように血が飛び散り、キラーコング(※だったもの)はべちゃりと落下し永遠に動きを止める。


「楽勝じゃない! カイ、エルフィ、ちゃんと見てた!?」

「うん、見てたよ。凄いじゃないかルーナ」

「ふふん、当然よこのくらい」


 当然と言いつつ嬉しそうな表情で胸を張るルーナ。

 それにしてもすごいパワーだ。キラーコングだって力自慢の魔物だったはずなんだけど。


「カイさん、解体はしないんですか?」

「そうだね、魔核だけでも回収しておこうかな。……って、エルフィはこういうの苦手じゃなかったっけ」


 ルーナの倒し方が豪快すぎてキラーコングの死骸はかなりエグい状態になっている。

 エルフィはこの手の光景は得意じゃなかった気がするんだけど。


「……ふふ、もう慣れました」

「エルフィ、目から光が……」


 まるで目の前の惨劇が霞むほどの何を見てきたかのような言い方だ。


 ここ数日でそんなことあったっけ?

 せいぜい魔物を狩るたびに僕が笑顔で解体していたくらいしか思い当たらない。


 そんなことを考えつつ、キラーコングの魔核を抉り出してから僕たちは移動を再開するのだった。

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