第9話

「……一応言っておくけど、エルフィは来なくてもよかったんだよ?」

「何言ってるんですか。私はカイさんについていくのが仕事です」

「エルフィがそう言うならいいけど」


 場所は昨日も訪れた『魔獣の森』。


 しばらくエルフィの寝顔を堪能した後、僕は彼女を起こし、朝食や身支度を済ませてからこの場所にやってきた。


 エルフィが確認するように尋ねてくる。


「今日はこのあたりで狩りをするんですよね?」

「うん。この弓の扱いにも慣れておきたいからね」


 昨日オークキング相手に使ってみてわかったけど、『ラルグリスの弓』は凄まじく強い武器だ。


 そして強すぎて今まで僕が使ってきた普通の弓と使い勝手が違う。

 武器スキルの数も多いから、土壇場で混乱したりしそうだ。


 そんなわけで今日の目的は『ラルグリスの弓』の扱いの練習である。


 扱い慣れないうちに魔物と戦うのは危険かもしれないけど、森の外周付近に強い魔物はほとんどいない。

 何とかなるだろう。


「あっ、カイさん! 魔物です!」


 エルフィが声を上げる。


 視線の先にいるのはコボルドだ。

 犬の頭に人型の体を持つ魔物で、この森では最低ランクの敵である。


『グルォオオオオッ!』


 こちらに気付いたコボルドが襲い掛かってくる。


「こ、こっちに来ますよ!」

「わかってる。エルフィは下がって!」

「は、はい!」


 今まで僕はこのコボルド相手でも苦戦していた。

 なぜかというと、普通の弓矢では『弓を構える』『矢を矢筒から出す』『矢をつがえて弦を引く』と攻撃までに時間がかかってしまい、その間に相手に接近されてしまうからだ。


 だから相手の不意を突く以外に勝ち筋がなかった。


 けれど今は昨日までの僕とは違う。 


(【自在出現】、さらに【矢数無限】)


 念じると『ラルグリスの弓』と矢が左右の手にそれぞれ出現する。

 後はあらかじめ左手に添えておいた右手を引くだけで攻撃準備が整う。


「ーー【加速】!」

『ギャアアアアアアアアアアアアッ!』


 僕が放った矢に脳天を撃ち抜かれてコボルドは真後ろに吹き飛んだ。


 よし、勝てた!


「た、倒したんですか?」

「うん。あ、素材を剥ぎ取ってくるからちょっと待ってて」


 おそるおそる尋ねてくるエルフィにそう断ってから、倒したコボルドのところに進んでいく。

 さすがに素材全部は持って帰れないけど、心臓部である魔核だけは確保しておきたい。


 さてさて、どのくらいのサイズの魔核かな。


「~~♪」

「何でカイさんはこの作業をそんなに活き活きとするんですか……」


 エルフィがやや引いているような気がするけど聞かなかったことにする。これは癖なので直しようがないのだ。


 コボルドから魔核を取り出してポーチにしまう。


 あ、そうだ。


(レベルは上がってるかな……)


 僕がポーチから取り出したものを見てエルフィが尋ねてくる。


「カイさん、それは何ですか?」

「ギルドカードだよ。自分の職業のレベルとかが自動で更新されていくんだ」


 ギルドカード、または冒険者カード。


 登録者のステータスをその場で更新してくれるアイテムで、冒険者は登録時に全員これをギルドから配布される。


「へえ~。冒険者の方はそんなものを持ってるんですね」

「これがないと新しいスキルを習得したときに気付かなかったりするからね」


 そんなことを話しながらギルドカードを確認する。



――――――――――


カイ・エルクス(狩人)

▷職業補正:「力」×「耐久」×「敏捷」×「魔力」×「器用」〇「五感」〇

▷レベル:28

▷スキル:【遠視】【落とし穴】

▷魔術:

▷適正武器:弓


――――――――――



 いちおう補足しておくと。


 職業補正 → その職業で伸びやすいステータス。

 レベル  → 成長度合い。

 スキル・魔術 → その時点で使用可能なスキルや魔術。

 適正武器 → 職業補正が受けられる武器。



 ……という感じだ。

 厄介なのが『適正武器』の項目で、ここに記載されている武器を使わないと職業の恩恵が受けられない。 


 僕のような『狩人』が不遇な弓を使い続けている理由がこれだったりする。


 というかレベルが上がってる。


 パーティを追い出された時点でレベル25だったから、昨日のオークキングとオーク、それにさっきのコボルドを倒したことで3レベルも上がっていたようだ。


(今まではアレスたちに獲物を取られてばかりだったからなあ……)


 二日でレベルが3上昇というのはかなりの快挙である。


 それができたのはオークキングという大物を、単身で倒せたことが大きいだろう。

 もちろん『ラルグリスの弓』のお陰ではあるけど。


「……」


 それにしても、レベル28か。


「エルフィ、ちょっと離れててくれる? 試したいことがあるんだ」

「え? はい」


 『ラルグリスの弓』に矢をつがえ、僕は適当な木に照準を定めて――


「【増殖】×二十八!」



 ヒュンッ――ドガガガガカガッ!



 増殖した矢が木の幹を容赦なく抉り取った。矢が刺さった場所を確認するとそこにはちゃんと二十八本の矢が。


 うん、やっぱりそういうことみたいだ。


 昨日武器屋で試したときは二十五本までしか増やせなかったけど、今は二十八本まで矢が増やせる。

 『ラルグリスの弓』が僕のレベルに応じて能力を発揮するのは間違いなさそうだ。


 となると――


「エルフィ、今日は多めに魔物を狩ることにするよ!」

「はい! お供します!」


 魔物を倒せば①自分のレベル上げ、②弓の能力上昇、③弓の扱いに慣れる、④お金も稼げると一石二鳥どころか一石四鳥。

 やらない理由はない!


 そんなわけで僕とエルフィは森の探索を続けるのだった。

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