第7話
七
夫
そこからまた数日後の夜、二人で食卓を囲んだ後に、私は沙月に加藤と呉谷と三人で会ったことを伝えた。沙月は随分と驚いているようだった。
「あいつらには僕たちが結婚していることは伝えなかったよ、その方が良かっただろ?」
「ええ、そうね、ありがと」
昔、私たちが付き合っていたことを秘密にしていたのは、周りとの関係が変化してしまうことを恐れたからであるが、現在私たちが結婚しているのを秘密にしているのは、結婚を決めた時に、沙月が私にそう頼んだからだった。
長い間親の介護で経済的にも苦しい生活をし、孤独な人生を送ってきた沙月は、もう昔の人間関係を掘り起こしたくはなかったらしい。
さらに、また新たな人間関係を築くことにも億劫になってしまったようで、私たちは式を開くこともなく、誰に便りを出すわけでもなく、静かに同棲生活をスタートさせるという形で結婚した。
社内でも、私が結婚したことを知っているのは一部の上層部、つまり私の家族だけである。
私の家族は少し旧弊な考え方を持っているので、結婚式を行わず、誰にも知らせずに入籍するということに大きく抵抗した。しかし、私は再会した当時の憔悴しきっていた妻にこれ以上の負担をかけさせたくないという思いから、その反対を押し切り、私たちの結婚を承服させたのだ。
妻
勝廣が呉谷と会ったと聞いたとき、沙月は心臓が止まりそうになった。
なぜ? なぜ呉谷が勝廣に会っているの? 夫はどこまで知ってるの? 私は断罪されるのだろうか? 私の所業は、夫はおろか、かつての友人達にまでも知れ渡ってしまったのか?
そのような不安に一気に押し潰されそうになったが、勝廣の話をいくら聞いても、彼が沙月と呉谷の現在の関係を知っているようには思えなかった。
そのうえ、勝廣は私達が結婚したことも伝えなかったという。まさか勝廣がその約束を守り続けてくれるとは思わなかった。
様々な情報が一度に入ってきて、沙月は混乱状態になった。とりあえず過去の犯罪と現在の不倫はばれてない。呉谷は私達の結婚を知っているが、その話をしなかったようだ。
大丈夫、状況はほとんど変わってない。ただ、勝廣が友人として呉谷と会った。ただそれだけのことだ。しかし、その事実で安心できるかと考え始めたら、大きな不安がまた沙月を襲った。なぜ、呉谷は夫に接触したの? 今のタイミングで? 何が狙い?
問い詰めなければならない。そして、秘密が勝廣にばれることはどうしても防がなくてはならない。呉谷と会おう。今まで自分から連絡を取ったことはなかったが、すぐにでも彼と会う必要がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます