第10話

「……ってことがあったんだ」


 昼休み。いつものように食堂で明人あきとに昨日のことで相談を受けてもらっていた。


「へぇ。いつも遅くに課題終わらせるお前がもうそこまでいったんだな」

「ちゃんと話聞いてたよな?」

「冗談だって」


 明人あきとは悪戯っ子のように笑うと再び箸を動かしながら口を開ける。


「つまるところ、『予知夢』を回避できなくて怖いってことだよな」

「そうだよ。マジでヤバいんだよ」


 食事中だというのに項垂れてしまう。


「そんな気にすんなよ」

「他人事だからだろ?」

「それもある」

「あるのかよ」

「ただ、本気で回避する気がないのに回避できないって言ってるのがアホらしく見えただけ」

「いやいや。結構頑張ったって」


 極力家に入れない努力をしたし、未来みらいがいない場所で数学を終わらせようとした。これだって抗おうとした証拠だろう。


「もっとやり方があっただろって話」

「やり方って?」

「例の問題を先に終わらせるとか、清水しみずさんを野宿させるとか、数学課題燃やすとか」

「おいおい。最後の二個やべえぞ」

「それだけ『予知夢』は変えられないって話だ。聞いてた感じだと本気で回避しようと思えばできるんじゃないか?」

「うーん……じゃあ次の夢から試してみるわ」


 明人あきとが弁当箱を片付け始める。それに合わせて俺も全然食べてなかった弁当を急いで口に運んだ。


「ぼじぞうさま」

「ちゃんと話せるようになってから口を開けろ」

「…………さーせん」


 お茶でご飯を流し込み謝罪の言葉を述べる。


 今度こそ『予知夢』には徹底的に抗ってやる。登校風景が映れば違う道……いや一週間は休み、授業風景ならその教科をサボリ続ける。


 ──来い、今度こそ抗ってやる!


 しかしその日を境に夢を見ることがなかった。


 そのままテストも終了し気付けばクリスマスイヴ1週間前になっていた。


「もう『予知夢』は見てないのか?」

「あぁ。ほんと拍子抜けだよ」


 スマホで通話しながら明人あきとと対戦ゲームをする。テスト終了後は実質冬休みで今年の登校はテスト返却日と終業式だけだ。


「そうか? 嵐の前の静けさって言葉があるんだし次は特大の『予知夢』だったりしてな」

「脅すなって。怖くなるだろ」


 何かと明人あきとの言うことは当たりそうで怖いんだよな。


「脅したつもりはないんだけどさ、なんで清水しみずさんに『予知夢』のこと言わないんだ?」

「あー……特に理由はないよ。ただ心配をかけたくなくてさ。それに『予知夢』が見えるって言う奴は中二病みたいだろ?」

「安心しろ。お前は中二病だ」

「は!?」

「はい俺の勝ち」


 気付けば画面にYou diedと表示されていた。


「卑怯だぞ」

「なんのことかな」

「このやろー!」


 再戦の申込みが一瞬で承諾される。


 そして気付けば今日もゲームばかりして一日が終わった。

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