utopos

西影

第1話

 誰かに見られているんじゃないか? なんて思うことがある。


 この世界はフラスコの中に作られた実験場で、高度な文明を持った生物が俺たちを観察している……なんて。


 イデア論や世界5分前仮説、水槽の脳など様々な哲学が存在しているからかそんな妄想をしてしまう。


 もっと言うのであれば今歩いている通学路でトラックに轢かれたら異世界に行けるとか、過去にタイムスリップできるかも興味ある。異世界に行ってチート能力貰いハーレム生活送りたい。


 ……これはラノベの見すぎだな。今ではテンプレ、当たり前のようにみんなが知ってる展開だけど初めてこの設定を生んだ人はどうやって作ったのだろうか。


 とまぁ、そんなことを考えている俺だが別に根暗なボッチ陰キャではない。陽キャとは言わないが、根暗になったつもりはないし友達もいる。それに……。


「トモくーん!」


 後ろから声をかけられ振り返る。腰まで伸びた自慢の青髪を揺らして走ってくる俺の彼女、清水しみず 未来みらいの姿があった。


 俺は立ち止まり、未来みらいを待つ。いつも思うんだが未来を待つっていい言葉だよな。名付け親には感謝せねば。


 未来みらいは俺の横に着くと疲れたのか膝に手を当てて肩を上下させた。もう冬も本番だというのに首に汗が流れていて暑そうだ。俺はその頭を優しく撫でる。


「わざわざ走らなくても教室で会えるのに」

「はぁ、はぁ、だ、だってトモ君が見えたんだもん」

「でもな、周りを見てみろ」


 未来みらいが顔を上げる。周辺にいる登校中だった生徒の大半が俺たちのほうを見ていた。状況を把握したようで未来みらいが恥ずかしそうな顔を浮かべる。


「あ、あはは。私たち見られちゃってるね」

「そりゃあ『トモくーん』って大声出しながら走ったら注目されるだろ。待ってる俺も恥ずかしくて逃げたかったぐらいだ」

「でも、トモ君逃げなかったじゃん。ほんと優しいんだから」


 未来みらいが頭に置かれている俺の手を掴んで自身の手と絡めていく。俗にいう恋人繋ぎってやつだ。それを俺の顔の高さまで持ち上げて笑顔を浮かべた。


「ほら、登校しよ?」

「そうだな」


 透き通ったキレイな碧眼に見つめられて俺は顔を逸らしてしまう。もう付き合って1年が経つというのにまだ慣れない。


 そのまま俺たちは登校した。


 右手で感じる温もりは冬の寒さで冷めるのを知らない。特に話すことがないので無言だが気まずくならず、むしろ心地いいとまで感じた。


 未来みらいもそう思っているのか機嫌が良く、鼻歌を歌っている。


「今日は機嫌が良さそうだな。何かあったのか?」

「何かあったってほどじゃないんだけどね。こうやって好きなトモ君と登校出来て幸せだなぁって」

「安い幸せだな。これぐらい、いつでもできるだろ?」

「それは今があるからなんだよ。あの日私が勇気を出して告白できなかったり、トモ君が私を振っていたら幸せな今はなかった」

「哲学みたいだな。だけどもしもの話なんて気にしても意味ないぞ。今が幸せだったら何も考えずその幸せに浸ってもいいじゃないか」

「そうだね。じゃあもっと甘えちゃう!」


 恋人繋ぎが解かれたと思うと、今度は俺の腕に抱き着かれる。もちろん未来みらいの女性らしい箇所が腕に当たり意識してしまう。


「昔はそこまで大胆じゃなかったよな」

「慣れだよ、慣れ。……昔の方がよかった?」

「まさか。今の未来みらいも好きだよ」

「えへへ、私も好き」


 腕に頭を預けられる。周囲の視線があるので結構恥ずかしいが、それ以上に嬉しくて俺の心も温まる。


 確かに、今があることに感謝しないとな。

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