Case 7ー2 理絵さん

 そんな第1関門を突破出来たら、なんとなく認めてもらえるようになる。

私が入って3ヶ月経った頃、夏だったから暑気払いの飲み会に行きましょうと、理絵さんに声をかけられた。

お店が定休日の水曜日の夜。

私は、子どももまだ小さかったし、ダンナに早く帰ってきてもらわなきゃだし、仕事じゃないのに夜に出かけるのはイヤだった。


メンバーは、マスター、奥さん、理絵さん、板前の中井さんと、関口さん、パートの宮田さんと、唐木さん、そして私の8人だそうだ。

正直、つまらなそう!!

ほんとに、気が進まない!!

だけど、まぁ これも、仕事のうちか……そう思って、仕方なくでかけることにした。

宮田さんに、

「マスターのおごりの飲み会だから、手土産持ってくるんだよ!」

と、言われた。

わっ!!くっそ、めんどくさいやつじゃん!!

いっそ、会費5000円払えとか言われる方が気が楽じゃん!!

近所のお菓子屋さんで、3000円くらいの菓子折りを買って、飲み会に行った。

想像していた以上に、くっそつまらない飲み会だった。

私はお酒も好きだし、飲み会も好きだ。

だけど、一緒に飲む相手って、重要なんだな~って つくづく思った。

もう、これは、接待なんだ!!

そう思って、頑張った。

パートの宮田さんと唐木さんはもう3年くらい働いているベテランさん。

でも、年で言えば、宮田さんが私の1個下で、唐木さんが1個上。

ほぼ、同年代だし、結婚していて子どももいるという、同じ立場な人だった。

この人たちとは、うまくやっていけそうだなと思っていた。


 私が、パートを始めて1年経った頃だったか、なんとなくだけど、唐木さんに対する理絵さんの態度が変わってきたような気がした。

唐木さんは、保育園で調理の仕事とのかけ持ちで働いていた。

パートの主婦の中でも1番年上だし、気が回るし、厨房での調理補助もよくやっていた。

それが、理絵さんは気に入らなかったようだ。

理絵さんは、板前の中井さんのことが好きで、中井さんと唐木さんが仲良くしていると思い、ヤキモチをやいていた。

たぶん、お互いにまったくそんな気はなかったと思う。

中井さんは独身だけど、唐木さんに手を出そうなんて感じもなく、元々寡黙な人だから、仕事中も必要最低限の指示とかの会話しかしていなかったと思う。

だけど、並んで盛り付けとかをしている姿を見て、嫉妬して、理絵さんは唐木さんを無視するようになった。

理絵さんは、宮田さんによく恋愛相談をしていて、宮田さんは

「大丈夫だよ~!告白しちゃいなよ~!」

とか、言っていた。

それは、なんてゆうのか、面白がって煽っているように感じた。

なにが、大丈夫なの?

大丈夫なわけないよね。

こんな、パートやアルバイトにパワハラしてる女なんて。

いくら板前で厨房にしかいないにしたって、新しい人が来ては辞めていくこの状況は、察しがつくだろう。

中井さんからしたら、マスターの娘ってだけで、まったく良い印象なんて持ってないだろう。

唐木さんは、なんの非もないけど、とばっちりを受けて辞めて行った。

唐木さんが辞めてから、宮田さんが理絵さんに、

「なんか唐木さんって、キレイだからって、お客さんとかにも、色じかけみたいな感じでイヤだったよ~。」

と、言っていた。

は?最悪だな!この人!!

完全な腰ぎんちゃくじゃん!!

バカだろ?

と、思った。



そんなこんなで、1年8ヶ月この店にいたが、

Case1の話につながり、私は店を辞めた。

きっと、私が辞めたあと、散々文句を言われたのだろうな。



後日、Case 1の林さんが剣道教室で、

「中井さん、結婚したんだよ!!」

と、言った。

「えっ?理絵さんと?」

「ううん、なんか、合コンで知り合ったって彼女とだって!!」

合コン?あの中井さんが!

「理絵さん、落ち込んじゃって、大変!!あははっ!」

あははっ!ってところがすべて物語ってるな。


ま、自業自得だろう。

好きな人が近くにいるなら、なんでもっと優しい人になれなかったんだろう。

哀れでイタイだけの人だった。





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