第10話

「対象の死亡を確認しました。次が最終テスト———Bランクの試験になります。B

ランクの課題は、特例によりA-級の魔物になることが決定されました。」

 

ここまで読まれたところで場内に大きなどよめきが起こった。


何しろこれは特例中の特例であり、本来A-というと、滅多に出てくることのない魔物で、それこそBクラスでも生きて帰れるか判らないといった、そんなヤバい獲物なのである。


進行役である受付のお姉さんの表情も暗い。観客全員が身構え、助けに行かなくてはならないような事態に備える。

そんな喧騒の中、続きが発表された。


「続けさせていただきます。

よって、合格するとB+として終了されます。      

課題————上級火魔人〝イフリート〟それでは、召喚が始まってから、30秒後に開始いたします。———。召喚。」


体中が火で構成された美しい魔人が姿を現した。体格はネロと同じぐらい。おそらく、【ファイアーボール】は効かないだろうと思ったネロは【鑑定】を発動させる。鑑定結果は・・・


——————————————————————————————————————


【イフリート(中位火魔人)】


比較的中位な魔人。小さい村程度だったら単独で壊滅できるほどの力を持ち、かなりの脅威として認識されている。火や熱への圧倒的な耐性を持ち、生半可な物理攻撃も効かない。


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『やべえぞこれ・・・火への耐性が強いってことは、さっきみたいなのは無理だよな・・・。ってか俺鎌一回も使ってないじゃん!使ってみよー。』


なんて考えているうちに30秒が過ぎ、イフリートが解き放たれる。


こちらに圧倒的な熱気を放ちながら、火球を乱射してくる。それを間一髪で躱しながら、背中に担いでいた大鎌を構える。


大鎌を構えたこちらを見てイフリートは一旦火球の乱射を止め、こちらを見据えると、また火球の乱射を始め————られなかった。


人外じみた脚力で瞬間的に間合いに入り込んだネロが大鎌を振りぬいた姿勢で目の前に立っていたからだ。


勿論体中が火で構成されたイフリートの間合いの中の温度は数百度に達し、無事では済まない。


ネロも衣服が焼け焦げ穴も開き、露出した皮膚に火傷、日本の基準で言うなら第三度

ほどの大火傷を負っていた。

しかし、ネロにとっては幸福———、イフリートにとっては不幸なことに、ネロには

悪魔としての種族特性、【即時回復】と【痛覚無効】により、傷は一瞬で回復し、彼は痛みを感じていない。

そしてイフリートの方は——ネロの斬撃が生み出した衝撃波により、頭を切り飛ばされていた。


そして衝撃波は結界まで届き、結界を消滅させて、消えた。

消滅するイフリート。沈黙が漂い、静かにアナウンスが響き渡る。


「対象の消滅を確認しました。合格。対象:ネロ・ディウスを、B+ランクに認定します。」


フー、と気を抜くネロ。と、同時ドッと歓声が巻き起こった。観客たちは口々に驚愕

の声を上げていた。


「なんだありゃ!結界が消滅だと!?」


「よし!俺たちのパーティーに勧誘に行くぞ!あれがいりゃのし上がれる」

「相手はイフリートだぞ!?なんであんな簡単に倒せるんだよ!?」


 そんな喧騒のなか、アスと受付のお姉さん———カタリナは静かに話していた。


「あれはえげつないっすよ・・・。目をつける相手、間違えたっすね・・・。」


 完全に真っ青な顔色のアス。それに答えるカタリナの顔色も少し悪い。


「明らかにそうね。ていうか観客は誰も気づいていないけど、彼の使った魔法の魔

力・・・」


 そうカタリナが発した言葉に反応するアス。


「それは疑問に思ったっす!だってあれ、たぶん人間の魔力じゃないっすよね?」


 ブンブンと頭を振って同意を示しながら、


「多分というか、十中八九———いや、確実に人間以外の何かね。それにしてもすさまじい魔力。私たちや、彼の障害になったらと考えると、厄介ね・・・。それにしても貴方、よくいつもの調子でいられるわね。ほんとにすごいとおもうわ。」


 心底頭が痛いといった表情で首を振るカタリナ。アスはそんな彼女の言葉にそれ褒めてるんすか?とむくれながら、


「障害になったら、それは確かに厄介っすね・・・。でも私は彼を追ってて、彼はこっち側だと思ったっすよ?」


とネロに対しての印象をカタリナに語る。それを聞いたカタリナは、まあ貴方がそういうのであれば大丈夫でしょう、と一置きしてから、


「まあ、今後とも頼むわよ、アス。」


と、信頼した様子でアスに語り掛けた。するとアスはビシッと敬礼して、


「勿論っす!機会があれば一回連れていくっすよ!」


と口にする。それを聞いたカタリナは一回うなずいて肯定すると、


「そうね。そこからは彼に任せましょう。私たちには関係のない——いや、触れてはいけない彼の感情だもの。っていうか、戻ってきたわ!ちょっとこの話後でにしましょう?」


そういったカタリナの視線の先には大鎌を収納し、歓声に包まれこちらに向かってくるネロの姿があった———。

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