シックスバトル VS 邪神教。

 俺とキャッシュはあるかどうかも分からない村を目指して森の小道を歩いていた。


「本当にこの道でいいのか?」

「たぶん、絶対大丈夫だと思う」 

「絶対大丈夫の前に不安を煽る副詞があるんだが」

「私の勘に任せなさーい!」


 何だよ、勘かよ。と思ったのだが、俺だってどのみち当てがあるわけじゃない。今まで通りじゃまた黒ずくめ共にまた先回りされちまう。ここはキャッシュの勘に乗るのも悪くない。そう思えた。


 気持ちを切り替えた俺にキャッシュの当然と言えば当然な質問が飛んできた。


「ところで貴方、背中に背負ったその立派な剣が呪われてるとか言ってたけど、全く使えないの?」


 俺はこのドデカイ剣の鞘と鍔の部分をロックしている金具を外すとスラリと抜いて見せた。この剣の刀身は竹という植物で作られた竹光タケミツという殺傷力の無い物だった。


 それでも冒険者になる夢を見ていた俺は、毎日欠かさず素振りを行なっていたのだがある日、木に打ち付けた拍子に折れてしまったのだ。それ以来鞘は付けたままで素振りを行い、鞘は一切外していない。


「それってまさかタケミツブレード? しかも途中で折れてるし」

「だから使えない」


 至極簡単な理由だった。


 最初は鍛冶屋で売るつもりだったのだが、鞘も柄もどえらく硬い鉄で出来ていて打ち直して別の物に変える事もできない為、買い取りはしてもらえなかったのだ。


「オリハルコンとかって言う金属で神にしか打ち変える事は出来ないって本人は言ってた」

「聞いた事ない金属ね。そう言えば貴方の剣って喋るのよね、良くしゃべるの?」

「ああ……常にしゃべってる。聞くか?」


 俺が剣の鞘を差し出し、それにキャッシュが触れると微細な振動が彼女へと伝わった。その振動が音声として脳で変換される。いわゆる骨伝導である。


『私の勇者くんに取り憑いた虫の分際で気安くさわらないで欲しいカシラ。まあ私の勇者くんはイケメンだし、好きになってしまう気持ちも分からなくはないのだけれど、あくまでも貴方は二番目。私こそが正妻だと言う事を肝に銘じて……』


「もういい、分かった。コレ、呪われてるわ」

「だろ。置いて行くと泣くわわめくわ。一定以上離れるとさっきみたいに飛んでくる訳よ」

「想像以上に難義ね」


 顔をしかめたキャッシュだが、視線の先に人影を見つけると笑顔を見せた。


「ほら、やっぱりこの道で合ってたじゃない」


 人影に向かって走って行くキャッシュを追って俺もゆっくりと歩速を早めて行く。だが、前を走るキャッシュの足が急に止まった。


 人影は村の入口に立つ見張りのようだが、彼らが村の方へ顔を向け何かを叫ぶと村の中から続々と人が集まってきた。


「ええっ、また黒ずくめ?」


 キャッシュの言う通り、全員が白い笑顔の仮面に黒いローブ姿で、ナタやカマの様な武器を携えており、そのいで立ちから絶対に歓迎されていない事が俺にでもすぐに分かった。


「キャッシュ、逃げるぞ!」

「ちょっと遅かったみたい」


 既に逃げ出す体制を作っていたキャッシュが振り返った先にも、数人の黒いローブの奴らがいる事に気付いて呟いた。


 黒ローブ達の中に先ほどエクスカリバーにぶっ飛ばされた黒装束の男がいた。縄で縛られていて、コイツ等に連行されて来たみたいだ。リーダー挌だろうか、中央の男が仮面をはずしてこちらに話し掛けてきた。


「おいおい、今日はお客さんが大量だな。我らが邪神教の村祭りへようこそ!」


『『邪神……』』


「す、すみません、僕ら道に迷ってたまたまここへ来てしまっただけなので、大切なお祭りの邪魔にならない様にすぐにおいとまします。行くぞキャッシュ」

「そ、そうよね……」


 彼女の手を引いて彼らの脇を通り抜けようとするも、そうはさせじとリーダーは立ち塞がってきた。


「おいおいつれないな、今宵邪神様が復活しこの世の終わりが始まるのさ。せっかくだから世界の終末を共に祝おうぜ!」

「いやぁ~今週末予定が詰まってまして……誠に残念なのですが」

「そっちの週末じゃねえよ」


 俺を捕まえようと手を伸ばして来たリーダーをサッと躱して、キャッシュを抱えたまま他の黒ローブ達の間をすり抜ける。『いくら人数がいたとしても、一人分重しが増えたとしても簡単に捕まる俺ではないのだ』

「誰が重しよ!」

「あれ? 俺の地の文、声に出てた?」


 余裕をかましていた訳ではないのだが、馬鹿にされたと感じたリーダーは声を荒げる。


「思ったよりすばしこい。我ら邪神教を相手に随分となめた真似をしてくれるじゃないか。だが、せっかくの生け贄を簡単に逃がす訳ないだろうが!!」


 リーダーが右の手の平を大きく開いてこちらへ向けると呪文を呟いた。


「闇の精霊よ、その力をもって彼の者たちを眠りの世界へと誘え!【強制睡眠スリープ】」


 腕に抱えたキャッシュがぐったりとして急に重さを増した。カクンとこちらを向いた彼女の顔はよだれをたらし鼻提灯を膨らませていた。


『うわぁ、これ女の子が見せちゃいけないヤツだ』


 そう思った瞬間一時的に覚醒するも、自分にも同じ睡魔が襲って来ており意識を保ちながらリーダーをにらみ返すのが精一杯だった。


「おいおいすげぇな兄ちゃん。俺の睡眠魔法が効かなかったのはあんたが初めてだよ。こりゃあ俺の本気を見せなきゃならないようだな」


 言うが早いか掲げた右手に魔力を集中させ始めた。


『走って躱す』たったそれだけの事なのに、全く出来る気がしないほど、体が重く思うように動けない。そうこうしているうちにリーダーの詠唱が始まった。


「我が使役せし闇の精霊たちよ、彼の者を深い闇の世界へと誘え!【弩級催眠ド・スリープ】」


 意識が深い闇の中に沈み込んでいく。その時、背中に背負ったエクスカリバーが震え何かを叫んでいるような気がしたのだが、そのまま俺の意識は何もない暗闇に飲み込まれた。


「畜生、こんな小僧の為に無駄な魔力使わされちまった。だがまあいい、今夜邪神様の力の一部が蘇り、この世界の終焉が始まるのだ。全ての生命を滅ぼし、浄化された新たな世界で我ら邪神教徒のみが新たな生命として復活するのだ!」


 黒ローブの達のリーダーが拳を強く握り両手を上げて叫ぶとその場にいた者たちも全員拳を上に突き上げ『邪神万歳、世界に浄化を!』と連呼し叫んだ。


 薄れゆく意識の中でその声を聞きながら、浄化された世界では親の借金も浄化されるのだろうか。そうすれば俺は、俺だけの夢に向かって行けるのだろうか……でもその時、俺も浄化されてんじゃね。などと自らに突っ込みながら静かに夢の中へと沈んで行くのだった。



 ーつづくー




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