セカンドバトル VS 回収人。

 定食屋の娘と距離を取るため全力で走る俺の前に木の影から黒づくめのローブを着た集団が現れた。


「待っていたよ、ローン君」

「くそ、どうしてここが!」

「君は王都で冒険者になると、ビーンヴォー村でもうそぶいていたからね。必ず最短距離のこの街道を通ると思って先回りさせてもらったよ。さあ、我々と一緒に【みんなのお家】へ帰ろう」

「誰がそんな所に行くか」


「あんた、またトラブル?」


 黒づくめに囲まれて、くだらん話をしているうちに定食屋まで追い付いて来ちまった。なんて事だ。


 黒づくめの男達のリーダー【カーエ・サヌワ】は定食屋の娘をなめるように上から下まで見回すと口元をニヤリと歪めて口を開いた。


「君もローンくんの関係者かな? 君にも彼の借金1000万円の返済のかたになって頂けると有り難いねぇ」

「こいつの借金に私は関係ないでしょ。私は未払いの代金を回収しに来ただけなんだから」

「そうだ、そうだ、どうぞ持って行って下さい」


「あ、あんたねぇ!」


 黒づくめのリーダーを含めた五人の男たちは、呆れている定食屋の娘を含めた俺たち二人を逃さぬように距離を詰めて包囲し始める。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、何なのよあなたたちは!」

「コイツらには何を言っても無駄だ。」


 他人ひとの話を聞く気がない黒づくめ達に動揺する彼女に、俺はこいつらの正体話す事にした。


「こいつらは闇金【明るい家族計画】の下部組織、労働者強制収容施設【みんなのお家】の追跡回収人トレーサーだ」

「あんた、闇金なんかに手を出したの?」

「俺の親父がな。だが、こいつらには借り主が誰かなんて関係ねぇ。関係者全員を連れ去って金に換えるんだよ」

「そ、そんなぁ……」


「借りた金は返す……我々はそんな当たり前の事をモットーにしているだけなんですけどね。スケード、シタラ、二人を拘束しろ!」


 リーダーサヌワの号令で黒づくめの男達のうち二人が俺達に向かって左手をかざした。


「「拘束水流リストウォーター」」


 人の顔くらいの大きさがある水球が俺たちに向かって放たれる。俺は当然体捌たいさばきで器用に躱したのだが、定食屋はそれを弾き返そうとフライパンを叩き付けた。


「バカ、それは……」


 俺の警告は間に合わず、水球を弾くどころか球の中の水流に絡め取られ、絡み付いた水球の重みに堪えられずフライパンを落としてしまう。


 更に続けて放たれた水球を俺は躱す事が出来たが、彼女は左足を絡め取られてしまい水球の重みで動けなくなってしまった。


 ちぃっ、この人数差で足手まといまで出来たら確実に捕まる。定食屋には悪いが正直あいつと俺とは何の関係もない。むしろ代金の回収なら借金取りと変わらない。あいつの方から絡んできたのだ。見捨てた所で何の問題もない。問題などないのだ。


 ちらりと定食屋の顔を見る。あの状態でもまだ目は死んでいない。抗う意志のある目だ。大丈夫……俺が見捨てたとしてもあいつならきっと大丈夫だ。俺は自分に言い聞かせるように、その想いを、言葉を強く念じた。


 俺一人ならこの程度の人数どうにでも出来る。


「サネイ、スカラ、その女はもう逃げられない。小僧を逃がすな、囲い込め!」

「「了解だ、兄貴!」」


 二人は俺の進路潰すように動いたが、俺はきびすを返すと定食屋の元へと走った。この行動は奴らの虚をつけたようだ。俺は動けないでいた定食屋の元へ走り、彼女を小脇に抱えると全力で走る。


 水球の魔法を躱し、走る走る!!


「ちょっとあんた、変なとこさわらないでよ!」

「うるさい、定食屋! 置いて逃げなかっただけ有り難いと思え」

「誰が定食屋よ。私はキャッシュ、キャッシュベル・ポー。炎の料理人見習よ!」

「キャッシュベル……なんかどデカいいかづちでも打ちそうな名前だな」

「なによそれ」

「いや、何となく。それより躱すのは俺がやるからキャッシュはさっきの火の玉宜しく!」

「納得はいかないけど、了解!」


 彼女は左手に魔力を込めると黒ずくめ達に向かって火球を連射した。


「ファイア、ファイア、ファイア!!」


 俺はこの日初めて、誰かとパーティーを組んで戦う事になった。


 俺に抱えられたままキャッシュは火炎弾を連続発射する。こいつの魔法レベルは知らないが黒ずくめ達は慌てて回避や防御を始めた。


水流防壁ウォーターウォール


 水の障壁と火炎弾がぶつかり大きな爆発音と共に大量の水蒸気が辺りを覆い尽くす。


「ローン、全力でここから離れて!」

「さっきから全力だって~の!」

「つべこべ言わない、行くよ! 極大火炎弾ファイアボルト!!」


 俺に抱えられたままのキャッシュの左手からドデカイ火の玉が黒づくめ達に向かって発射された。


「ハッ、アレはまずい。全員散開し……」


 サヌワの叫びは間に合わなかった。霧状に舞っていた水蒸気が極大火炎で焼かれ気化して膨張……いわゆる水蒸気爆発を起こしたのだ。辺り一面が吹っ飛び、もちろん逃げ遅れた黒づくめたちも全員吹っ飛ばされた。



「クソっ、クソっ、クソっ!」


 唯一意識までは刈り取られなかったサヌワが焼かれてかすれた声で叫んだ。思うように動かない体を無理やり動かすと、懐からひとつの黒い球体を懐から取り出した。その球体に向かって思念を送る。


『センセイ、すみません。小僧どもにやられちまいました。お手を……煩わせて申し訳ございま……せんが、よろし……く、お願い……いたしま……す』


『ふむ、よかろう』


『……』


 センセイと呼ばれた男は返事を送り返したのち暫く様子をうかがっていたのだが、サヌワからの思念の返答がなかった。伝えるべき事を伝えて意識を失ったのだろう。


 あの拘束に特化した水魔法を使うあの五人兄弟の連携を一人の小僧が打ち破ったというのは実に興味深い。つまらぬ仕事と諦めていたのだが……。


それがしに出番が回ってくるとは……実に面白い」


 自らの想いを口にして口元を歪めて笑うその男は、落ち窪んだ瞳に歓喜と殺意の色を浮かべていた。





 ーつづくー



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