第7話

 俺の体がこれまでにない違和感を感じ取ったのは、本日3体目のゴブリンを吸収し終えた時だった。


 あの日から毎日ゴブリンの討伐と吸収を繰り返し、順調に成長をしていた俺は最近では正面から堂々と襲い掛かっているが、普通に倒すことができるようになるほど強くなっていた。まぁ、普通に倒せたという言葉に嘘はないが、ゴブリンからしてみればスライムがいきなり襲い掛かってくるという状況は全く想定していないだろう。すべて不意打ちのような形になってしまうのだが。


 それでも最初のころの俺であればすぐに引きはがされ、反撃を食らっていたことは間違いないだろう。自身の成長をかみしめ、努力が報われていることに喜びを抱きながら日々のゴブリン討伐に精を出していた。


 そんな日が何日か過ぎたまさに今日、今までにない感覚を覚えたのである。


 上位種への進化だ。魔物としての本能なのか、俺はすぐにその考えに至った。


 体の奥底から力が湧き上がる、不思議な感覚だ。その感覚も数分程度で収まった。


 自分に起きた体の変化を観察する。依然としてブヨブヨとしたスライムボディだが、今までよりも体積が少し大きくなっている…気がする。とはいえこれだけでは、どんな種族に進化したのかは分からない。


 もうしばらく様子を見て、いつものようにゴブリン狩りでもしようか。ただ最近、単体のゴブリン狩りでは味的にも経験値的にもあまりおいしくない。そろそろ団体で行動しているゴブリンも狙ってもいいころ合いではないか…と、ゴブリンのことを考えていると俺の体に変化が訪れた。つい先ほどまで単なるスライムだった体が、いつの間にかゴブリンの体へと変化していったのだ。


 驚いた。と同時に俺がどのような種族のスライムへと進化を果たしたのか大体の想像がついた。『ミミック・スライム』。数多いるスライム種の中でもかなり珍しい種類である。流石にスライムとはいえ進化形態は冒険者の討伐の対象に含まれる。


 しかし討伐したという話はおろか発見したという情報すらも少なく、長年商業ギルドに勤めていた俺でも2.3度ほどしか発見報告を聞いたことがない希少種だ。ただそれは戦闘能力が高く、討伐することができなかったというわけではない。『ミミック・スライム』の持つ特殊能力が、物や背景に擬態することができるというものにある。それにより、冒険者との遭遇を回避しているといわれている。


 数少ない発見情報も、運よく『ミミック・スライム』が擬態している瞬間を目撃できたとか、たまたま座った岩が実は『ミミック・スライム』が擬態していたものだったとか、そういったわずかなものしかない。それも仕方ないのだろう。擬態していなければ他のスライムよりも多少大きなスライムだ。スライムである俺ですら、進化前との区別がつかないのだ。


 ただ、一つ疑問がある。それは『ミミック・スライム』が魔物に擬態していたという情報を聞いたことが無いといことだ。情報自体が少ないということもあるし、俺自身がすでに特殊なスライムだ。もしかしたら『ミミック・スライム』の亜種に進化したという可能性もある。まぁ、誤差の範囲だろう。しばらくはゴブリンを狩りながら自分に何ができるか研究していくこととしよう。






 進化による肉体能力の向上により、ゴブリンを同時に5体相手にしても討伐できるようになってしまった。当然今までのように顔面に張り付いて、1体1体窒息死させるという効率の悪いことはしていない。方法は簡単に言うと刺殺だ。


 触手の先端をレイピアのように鋭く尖らせて魔力を込めて硬化させ、ゆっくりとゴブリンに近づき背後から脳天を突き刺す、ただそれだけだ。隠形の術を知らないため近づく前にゴブリンに察知されることもあるが、相手がスライムであることにやはりというべきか油断しており、すぐにこちらから注意を外してしまう。見た目の変化があまりないという点も、俺の進化先としてはかなりの当たりの部類に入るだろう。


 ちなみに触手を尖らせ刺殺するという試みは進化する前にも試してみていたことがあるが、失敗に終わっていた。それため刺突攻撃の訓練をあきらめ、鞭のようなしなる打撃攻撃をイメージして訓練してきたのだ。それが今回触手をレイピアのように擬態させたいと念じることにより、うまくいくようになった。やはり進化により出来ることが色々と増えているようだ。嬉しい限りである。


 消化速度もかなり早くなっている。こちらも魔力操作の訓練の賜物かもしれない。5体をわずか1時間ほどで吸収し終えてしまった。そろそろ、ゴブリンよりも上位の存在を狙ってもいいのかもしれない。


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