第5話【妹さえいればいい】

 日曜日の夜はいくつになっても憂鬱ゆううつになるものである。

 こうしてずっとゲームをしていたいと思っていても、月曜日という絶望は刻一刻と皆平等みなびょうどうせまって来る。


「あー! またその技使うー! ズルくない!?」

「お前が反応できないのが悪いんだよ。いい加減学習しろ」


 夕飯を食べた後、美百合みゆりと俺の部屋で世界的大人気のスマッシュゲーをすることがここ毎晩の日課。


「ただでさえ俺のキャラと相性最悪なのに、何で使うかね」

「だって吸い込んだアイテム次第でいろんな能力が使えるんだよ。絶対強いに決まってるじゃん」

「総合力で見たらな」


 美百合が操作しているキャラは丸くて体色は全身ピンク一色、幼児のように何でも口の中に吸い込んでしまう謎の生物。

 愛らしいとぼけた顔とは裏腹に、特性故のピーキーな癖を持っていることもあり、美百合は使う度キャラに振り回されている。

 かたや俺の操作キャラは、主に強力な電気攻撃を武器とする黄色いネズミ。

 当たり判定が小さい・全キャラの中でもトップの素早さを持っていて、愛用する使用者は多い。


「美百合は計画も無しに無駄な変身多過ぎ。使える引き出しが多いのはいいが、扱えないんじゃ宝の持ち腐れだぞ?」

「私、あんまり細かく考えて動くの苦手なんだよねー。本能のままに動くタイプ? ていうのかな」


 んなもん、美百合の兄を14年も経験していれば自然とわかる。

 この妹はスマッシュゲーの持ちキャラ同様、愛嬌もあって人当たりもいい。

 長所として言えば素直、短所として言えばバカ正直。

 純粋なのはいいことだが、兄としてはいつか悪い虫に引っかかりそうな気がして心配ではある。


「そんなことよりおにぃ、最近帰り遅いけど......彼女でもできた?」

「は? んなわきゃねぇだろ」

「だって万年帰宅部のおにぃが、一週間も夕飯の時間ギリギリに帰って来てるんだよ? 怪しんで当然じゃん」

「生徒会に入ったんだよ」

「......嘘だ!」 

「美百合、いきなり大声出すのはやめてくれ」


 ナタでも持って襲い掛かってきそうな形相でいきなり腕に抱き着かれると本気でビビる。


「というか、急遽生徒会の仕事を手伝うことになってな。これからしばらくは帰りが遅いと思う」


 

 全ては一色の気持ち次第。

 飽きて俺との契約を破棄するまで付き合うしか終わるすべはない。


「なんでおにぃがまた」

「成り行きというかなんというか――神が悪魔に遺産を与えた悲劇というか――」

「どういう意味?」

「気にすんな、独り言だ」


 無垢な瞳でキョトンとする美百合を引き剥がし、再びコントローラーを握ってゲームの再開を促す。


「そっか生徒会かー、凄いね。最近の学校から帰ってきたばかりのおにぃ、なんだか甘くていい匂いがするからずっと気になってたんだー。女性ものの香水みたいな」


 あー、てっきり一色の食糧庫生活という役職の影響で体にパンの匂いでも染みついたのかと思ったんだが、どうやら一色の香りが俺に移っていたらしい。

 自分から漂う匂いは結構気づきにくいって言うしな。


「彼女ができたら絶対家に連れてきてね。そしたら三人でゲームして遊ぼう」

「そうだな......」

「だーかーら! その技はズルいって言ってるじゃん! 美百合の話し聞いてたー!?」


 再び扱いきれていないキャラでバカ正直に挑む可愛らしい妹を、俺は無情にも完膚なきまでに叩きのめしてやったのだった。


 ***


 翌日の朝。

 休み明けで重たい身と心を無理矢理立たせ学校に向かっている途中、地元の最寄り駅付近でをまるで地面に落ちた物を探しているような所作しょさをする女子が目に留まった。

 よく見ればウチの学校の生徒だな。

 何があったのかは知らないが、あまり一色以外の女子とは関わりたくないので、申し訳ないがここはスルーさせてもらおう。

 彼女から目を背け、速足で改札口に向かおうとした瞬間、

 

「――あの! ○○高校の生徒さんですよね? 助けてください!」


 眼鏡越し、瞳に薄っすら涙を溜めた半泣き状態の彼女が、俺の制服の袖を掴んで必死に訴えてきた。

 と同時に、柔らかくそして半端じゃない弾力性のあるが腕に触れ、思わず視線を下に向ければ、


 ――え? 何この子の胸.....................







めちゃめちゃデカイんですけど!!!???

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