閑話1【事後】


「――なぁ、一つ訊いていいか?」


 契約の儀式後。

 一色いっしきがパイプ椅子を畳んで体育用具室から出る準備をしている中、余韻冷めやらぬ状態のまま問いた。


「何かしら? 胸の感触についてだったら処すわよ?」

「ちげぇよ!」


 元が釣り目がちなもんだから、睨まれると必要以上に怖いんだが。

 

「胸を触ったら能力の干渉を受けないのを知ってるってことは、当然誰かに試したんだよな?」

「もちろんその通りよ」

「ひょっとして......その、彼氏とか?」

「――もしかして如月君、下僕の分際で何かいやらしい想像しちゃってる?」


 人のリアクションを楽しむかのように上目遣いで俺の顔を覗き込んでいる。


「そりゃ想像もしちまうってもんだろ。突然あんなマネされたら......」

「健全な証拠じゃない。まぁ、この私の胸を揉んで何の反応も示さなかったら、契約を即刻破棄して地獄に叩き落とすところだったけど」


 ......今さらっと恐ろしいこと言ったぞ、こいつ。


「あなたが思っている相手ではないわ。第一私、彼氏なんて過去も現在もいたことないもの」

「へー、そうなのか?」


 仮に付き合えたとしても、性格の悪さが露見した時点で相手の恋心は一気に萎えるわな。


「弟で実験してみたのよ。必ずどこかに能力の干渉を破る方法があると思ってね。それで試しに体の隅々まで触らせた結果、胸を触ることがトリガーであることが発覚したの。我ながら自分の天才的直感に惚れ惚れしてしまったわ」


 自慢気に語っているところ申し訳ないんだが、わけもわからず姉の妄想癖に付き合わされた弟さんが哀れでしかない。

 会う機会があるかどうかは知らんが、その時は被害者同士、優しく接してしてあげよう。


「というわけだから安心して。私の胸を揉んだのは、家族以外の男性ではあなたが初めてよ」

「......全然嬉しくないな」

「恥ずかしがらなくてもいいのに」


 照れを誤魔化す俺に、一色は鬱陶うっとうしく肘で脇腹を小突く。

 いくら食糧庫認定したモブとはいえ、簡単に胸を揉ませる一色のことが俺は益々わからなくなった。

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