第11話 遠足から帰っても人生は続く。

 倉庫の中から現れた金髪の少女とメイド。


「あなた達は山賊……ではないようね」


 長い黒髪のポニーテイルに丸メガネ、170近くある長身のメイドが警戒しながらも話しかけてくる。


 俺たちは戸惑っていた二人に、ことの経緯をおおまかに説明した。


「……なるほど。偶然にしても助けていただいたのは事実です。何かお礼をさせてください」


 説明を終えた直後、金髪の少女は口を開いた。

 少女の名前はアリア。どこぞのお偉いさんのご令嬢だそうだ。


 金髪の綺麗な髪を腰まで伸ばし、天使を思わせるような顔には、どこか気品のようなものを感じる。


 そんなアリアお嬢様はメイドのサンドラと首都に帰る途中、山賊どもに護衛を殺され、幽閉されていた所に俺たちが来た。という流れらしい。


「なら、その指輪をよこせ」

「……ごめんなさい。この指輪は我が家の者にしか渡してはいけない決まりでして」

「だってよ人間のクズ、あきらめろ」


 アリアの首にぶら下げられていた指輪は青い宝石がついている小さな物だった。一回限定で"万物を凍てつかせる"凍結封印魔法が使用できる魔道具だそうだ。


 アリアの家族やその先祖たちは、魔法が込められた指輪を他にも幾つか所持しており、外部の者が悪用しないよう管理している。


「そうか、残念だ……」

 おっ、珍しい。コイツが素直に引き下がるとは。


「申し訳ございません、兵藤様」

「いいんだよ、コイツのことは気にすんな」


 俺からアリア達に断りを入れていると、兵藤は突然、大きく手を上げだした。


「ゴボリンども! 集合!!」

「「「はいゴボッ!!」」」


 「は?」


 兵藤の呼び掛けと共に、待機していた全てのゴボリン達が集まる。

 なんでゴボリンを呼んでんだコイツ。


「さて、オレは後始末を終えるまでが戦いだと思うんだ」

 

「たしかに! 神の言うとおりゴボッ!!」

「さすが神様ゴボッ!!」

 

「おい、何するつもりだ?」

 俺がそういうと兵藤はおもむろに、何かを見せてくる。

 

「なんだそれ? 『スイッチ』?」

 それは手のひらサイズの小さな円柱の棒に、赤い押しボタンのようなものがついているスイッチ。


「ああ、この『スイッチ』を押すと地面に仕込んでおいた装置に静電気が発生し、火薬に引火して爆発する」


「「「「「は?」」」」」

 その場にいた全員が声を揃えて言った。


「いやぁ~、ゴボリン達にバレないように仕込むのはかなり大変だった。しかし戦闘も終了し、後はゴボリンもろとも”後始末”。だ」


「「「ゴボッ!?」」」

 お前らは用済みだと言わんばかりの兵藤に、面食らったゴボリン達は混乱。そして俺たちも混乱。


「神様やめてゴボ!!」

「神か……、神は死んだ」


「いやいや! お前も巻き込まれるだろ!」

 ここにいるゴボリン全員を始末するためには、それなりの範囲を爆破しないといけない。確実にコイツも巻き沿いを食らう。


「もちろんだ。だから自分は助かるギリギリの量に火薬を調整してある」


「待て」

「待たない」


「お願い兵藤、考え直して……っね?」

「断る」


「おい! 誰かコイツを止めろッ! その『スイッチ』を押させるなーーーッ!!」


「いいや限界だ! 押すね!!」

 カチッ


 スイッチが押された瞬間、地面からとてつもない閃光と熱砂が足元から轟音と共に巻き上がる。


 これは………死んだ。


 爆風と爆炎によってあたり一面にいた生物は吹き飛ばされ、見る影もなく地にして倒れる。

 モクモクと湧き上がる黒い煙と高温の熱はその凄惨な破壊力を物語る。


 しかし、そんな土煙が上がる中での人影だけは立っていた。


「ふぅ、さすがに耳がキーンッてするなぁ」

「さすがにやりすぎだよ……」


「ありゃ? 山田、なんで無事なんだ?」

 不思議そうな顔をしながらも、兵藤は周りをキョロキョロと見渡した。


「あぁ、近くにあった死体を盾にして身を守ったのか……。判断が早い」


「ちょうどいい、運ぶの手伝ってくれ。捕虜ほりょになってた二人は治療して置いていく」

「オレは生きている山賊を持って先に帰るから、山田はセラルと永岡を荷台に載せて運んでくれ」


「……分かった」


 気に食わない。という顔をしていた山田をガン無視し、お目当ての指輪をちゃっかり奪った兵藤は、機嫌が良さそうに口笛を吹き、山賊の1人を抱えて街に戻っていった。



 そして爆破から1時間ほど経った頃、は目を覚ました。


「私たちはいったい……たしか山賊にさらわれて──ッ!?」

「アリア様……ココにいる山賊やゴボリン達は既に死んでおります……」


「サンドラ、素直に反応してもいいのよ?」

 地面に転がった死体の脈を触れたサンドラは、驚きの表情を隠せずにいた。

 

「いったいここで何が…………」


 二人は衝撃によって記憶の一部を失っていた。

 

 ◇


 捕らえた山賊を身代わりに領主に突き出し、壺を返した俺たち。何度も断ったが結局、無理やり謝礼渡されてしまった。

 

 罪悪感から小さな涙が流し俺たちは領主の元から離れた。


 "諸悪の根源"こと兵藤は、クラーキンの串焼きをほう張りながら呑気のんきに後ろを歩いている。


「……とにかく、この街から離れよう」


「そうね、気を取り直していこう」

 

「次はどこに向かうんだ?」

 特に悪びれた様子もなく聞いてくる諸悪の根源。

 

「この国の首都『バビロン』だよ」

 爆弾魔の質問に答えるセラル。死にかけたのにも関わらず俺たちの旅について来てくれるそうだ。


 今から向かう首都バビロンは国王が住む城・カジノ場・闘技場・神殿などがあり、港とも繋がっているため国内外問わず、あらゆる人々や情報が集まってくる。


「あれだけ大きな都市なら、あなた達が故郷に戻る方法を知ってる人がいるかもね」

「うまい飯もあるのか?」 


「お前はいつまで串焼き食ってんだ。でもまあ、飯やカジノには俺も興味あるな」


「永岡、ギャンブルは控えなよ」

「博打はともかく、タバコが吸えねぇのはそろそろキツい……」


 俺は週5でパチンコに通い、タバコは一日にニ箱は吸っていた。ちなみにパチンコの収支は勝っている。……心の中では。



 そんなこんなで俺たちは始まりの街を離れ、馬車に乗って首都を目指すこととなった。

 そしてそんな道の途中、俺は片腕を失った。

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