すれ違った小学生

 私がまだ小学生だった頃の話。

 何人かの友人達と河川敷で遊んだ後、皆それぞれに家に帰っていった。

 その帰り道、堤防から降っていく道路で自転車の籠にサッカーボールを入れた4人の小学生とすれ違った。

 その小学生達は私よりも一つか二つほど下の学年くらいかと思ったが、学区が違うのか見たことのない面々だった。

 他の学区の小学生達がこの辺りに遊びに来ることは珍しかったため、やけに印象に残っていた。

 きっと私たちと同じように河川敷に遊びにでも行くのだと思っていた。

 家に帰ってからしばらく経った後、母親が仕事から帰ってきてすぐにこんなことを言っていた。

「川に遊びに行った小学生の男の子が流されて亡くなった」

 詳しく聞いてみると、何人かで河川敷で遊びに行きサッカーをしていて、ボールが川に落ちてしまい、1人の男の子がそのボールを取りに行ったところを流されてしまい、残念ながら亡くなったとのことだった。

 私はその話を聞いて、先程すれ違った小学生達のことだと思った。

 ついさっき見かけた人がその後に亡くなったなんて信じられない、と、まだ人の死に直面したことのなかった私は幼いながらに思っていた。

 しかし、意外なことに次の日に学校へ行っても、特に全校集会などが行われて川で遊ばないように、などといった注意喚起がされることもなく、いつも通りの1日となったことを不思議に思っていた。

 また、それと同時に、全校集会が開かれなかったことで、亡くなったのは私の通う小学校の生徒ではなく、あの時すれ違った学区の違う4人の小学生のうちの誰がだったのだと確信した。

 それから月日が経ち高校生になった私は、例の川で亡くなった男の子の友人だったというO君と部活で一緒になった。

 O君は私の二つ下の後輩で、やはり私とは別の学区の生徒だった。

 しかも、O君もその時に亡くなったA君という男の子と一緒にいたと言い、私だとは思っていなかったが年上の小学生とすれ違ったのは覚えていたそうだった。

 本当はあまり話したくはない話題だったのかもしれないが、事故からは数年も経っているし、私が先輩だったこともあって断りづらかったのか、当時の状況を聞くと教えてくれた。

 その日はいつもの遊びに飽きて、行ったことのない場所に行ってみようということになったそうで、何人かの友人たちを誘ったが、川に行くと決まった途端に数人は行くのをやめてしまい、結局残ったのがあの時に見たメンバーだったそうだ。

 流されたボールはA君の物でも、O君の物でもなく、一緒にいたY君という男の子の物で、A君がボールを蹴って川に落としてしまい、自分の物であれば諦めるところを、友人の物だからと取りに行き、結果として川に流されてしまったのだそうだった。

 その後、O君とY君は警察に色々と話を聞かれ、親からは泣きながら怒られたと話してくれた。

 しかし、私はO君の話を聞いて、つい疑問に思ったことを聞いた。

 あの時、もう1人いなかった?と。

 あの日私が見た小学生は4人。

 恐らく先頭にいたのがA君で、その後ろに2列に並んでいたのがO君とY君。

 そしてその少し離れた後ろに、古びた自転車に乗った顔色の悪い男の子がいたと、私はそう記憶していた。

 それをO君に言うと、O君は間違いなくあの時は3人で河川敷に行ったと言い、見間違いか関係ない子供だったのではないかとも言われた。

 だが、その顔色の悪い男の子がO君の友人ではないとして、学区の違う子供達が偶々一緒の方向に遊びに行くことなどあるだろうか。

 学区が幾つかに分かれているとはいえ、人口の少ない街では子供達の人数だって多いとは言えないのだから。

 少しだけ距離が開いていたとは言え、すれ違いざまに見ただけでも4人組だと思うような纏まり方をしていたし、何より自転車に乗っていて知らない子供達に同じスピードでぴったりとついて行くものだろうか。

 私の記憶の中ではO君の後ろには絶対にもう1人のO君の友人がいたはずであるが、話題が話題なだけにこれ以上は事故の部外者である私が色々と口を出せるわけではないので、Y君にも聞いてみたらいいよ、とだけ言っておいた。

 後日、O君は律儀にも別の高校へ通っているY君にメールで事故のことを聞いてくれていたようで、案の定、Y君もあの時は3人で河川敷に遊びに行ったと返事をくれたそうだった。

 ただ、O君も知らなかったことだそうだが、3人が河川敷に着いた時、離れたところにすでに自転車が一台停まっており、知らない小学生が一人で遊んでいたが、気がついた頃には帰ったのかいなくなっていたのは覚えているとのことだった。

 その男の子が私の見た顔色の悪い男の子なのかは分からないし、A君が亡くなったこととその顔色の悪い男の子が関係しているのかも分からない。

 世の中には知らない方が幸せでいられることが無数にある。

 知ってしまえば、それはきっと良くないところに繋がっているのだと思う。

 私にとっても、O君にとっても、このことは知らない方がよかったことだったのかもしれない。

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