サイドボード (Hi-Sensitivity)

春嵐

第1話

 ゲームセンター。

 夕暮れ。

 人が集まり、ひとつのゲームの前で、盛り上がっている。

 ペダルが2つと、銃型のコントローラーのあるゲーム。対人対戦がメインで、基本的にはここにいない同ランクの誰かと戦ってランクを上げたり、隣同士で戦ったりする。何度かのサービス終了の危機を乗り越え、全国大会や世界大会とかも開催されそうなぐらいに勢いが出始めていた。


 順番待ちをしながら、サイドボードを、ぼうっと眺める。メインボードではいま動いている筐体きょうたい(ゲーム機本体のこと)の戦闘が映し出されてる。よわいので、見る気は起きない。

 それよりも、サイドボード。このゲームセンターでの、スコアや勝率、あと順位が乱雑に写し出される。この中の、対コンピュータ戦スコア。ここに、わたしはいる。というより、わたししかいない。コンピュータ戦はチュートリアルのようなもので、それこそ初心者中の初心者しかやらない。だから、スコアも気にする人は、ほとんどいなかった。


 わたしは、対人戦をしない。しないというか、人がいないところでしかやらない。最高ランクの、最上位だから。人がいるところでやると、注目されてしまう。だから、基本的に、コンピュータ戦だった。スコアをばかみたいに上げて、どこまで行けるか。そればっかり。


 夕方と休みだけ人が多くて、それ以外は人の少ないゲームセンター。少ないといってもときどき人が来たりもするので、やはりランク戦はできない。閉店後の、誰もいなくなったゲームセンター内で。ときどきやるだけ。


 わたしの順番は、まだまだ、来ない。待っている間、スコアの上げ方とか、効率の良いコンピュータ敵の倒しかたとかを、ぼうっと考える。そして、サイドボードを眺めて、そのスコアひとつひとつの対戦を振り返る。あのときは、あそこで突っかかったとか。そのひとつ下のやつは、旋回が弱かったとか。


 その下は。


「ん」


 わたしの、じゃ、ない。

 私以外の誰かの、スコア。たぶん、敵を1体取り逃して、その分のスコアが持ってかれてるやつ。でも、その一機を倒せていたら、そこそこ上位。スコアひとつ見ても、強いひとなら、それぐらいは分かる。


 誰だろう。


 名前。切り替わるのを待つ。


「誰だっけ」


 alternative7081。上位ランクのひとが遊びにでも来たのだろうか。ランク1位の名前とかも、特にわたしは覚えてない。よわいし。


 わたしの番は、まだ、来ない。

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