第7話 アルバス、ギルマスと会う

 冒険者ギルドに戻った僕は応接室に通されていた。


 応接室で待っていること数分。応接室の扉が開き、若い少女が入ってきた。


 肩まですらりと伸びた金髪に青と赤のオッドアイが目を惹く妖艶な少女だ。僕よりも小柄で、童顔だが雰囲気は老齢の魔女を彷彿とさせる。


「すまぬすまぬ、仕事が立て込んでおっての。ちと待たせてしもうたの」


「い、いえ全然大丈夫ですっ! ことが急すぎて、僕も頭の中を整理したかったので……!!」


 トレインが起きてから今まで。まだ受けいられないことが多すぎて、頭がパンクしそうだ。


 そんな僕の様子を見てなのか、目の前の少女はくつくつと笑う。


「……何か笑われるようなことをしましたか?」


「いや何。あの竜騎士がベタ褒めしていた冒険者と聞いていたからどんな豪胆な冒険者かと思えば、こんなこわっぱとは思わなくての」


 こわっぱ……。僕よりも小柄な少女にそう言われるとなんだか複雑だ。


 少女は笑いながらも、僕の隣に座る。


 え!? なんで隣!?


「近くで見てみるとなるほど、よほどいい生活をしてきたようじゃの。アルバス……家名を除いているが、お主貴族の出だな?」


 元貴族であることは誰にも話していないのに、この人は一瞬で言い当ててしまう。身なりや体付きから判断したのだろうか……?


「た、たしかにそうですが……近いです」


 少女はまるで舐め回すかのように僕を見つめる。


 ふわりと花の匂いが鼻をくすぐる。ダメだ。刺激が強すぎて、頭がクラクラしてきた。


「悪い悪い。ついつい愛いから、からかいたくなった。許せよ、アルバス。家名を名乗らない理由は聞かないでおいてやろう」


 少女は満足したのかぴょんと身を引き、次は僕の対面に座る。


「さて、自己紹介じゃ。わしの名前はエレノア・ヴィ・フローレンシア。冒険者ギルドの長をやっておる」


「ぎぎぎ、ギルドマスター!?」


 この人そんなに偉い人なの!?


 というかギルドマスターが直々に!? 僕、今日冒険者になったばかりだよ!?


「面白い反応ありがとう……くっくっくっ、お主は本当に面白いのぉ」


「は、はあ。どういたしまして?」


 ギルドマスターもといエレノアは肩を震わせながら笑っている。


 数秒後、笑い終えたエレノアは僕にこう言う。


「さて本題じゃ。まずはトレインの騒動についての報告は聞いた。お主の魔法がトレインを止める決定打になったと話は聞いておる」


「そんな……僕は青い火球の爆撃に乗じただけですよ。ジャイアントグリズリーも倒せず、竜騎士に助けてもらっただけだし……」


 僕が爆音波を撃てたのは、青い火球による爆撃があったからだ。あれでトレインの動きが止まり、僕は魔法を使うことができた。


 その後、生き残っていたジャイアントグリズリーに気がつかず、竜騎士に助けてもらったから手放しでは喜べない。


「そう謙遜するな。粗はあるが、お主が活躍したことには変わりない。ギルドとしてはアイアンランクからシルバーランクへの二段階昇進、それと特別報酬としてお主が望むものを与えようと思っている」


 冒険者初日で二段階昇進は破格だ。それに加えて特別報酬までくれるなんて、至れり尽くせりもいいところだろう。


 けれど望むものを与えると言われても、何も思いつかない。


「さてさて、どんな物がご所望かな? よほどの無理難題でない限り、わしはどんな物でも用意してやるぞ?」


「そう言われても思いつかないんですよね欲しいもの……。まだ冒険者になりたてですし、これといって求めている物があるかというと……」


「なるほど確かにそうじゃ。そうじゃのう、過去の例を挙げるとすれば魔剣を求めてきた奴はおったの。あとは滅多に手に入らないような貴重な魔法書、魔道具とかか。もしくは高ランクパーティーへの招待状とかもあったの」


 具体例を挙げられてさらに選択肢が増える。


 魔法書や魔道具は魔法使いにとって魅力的だ。


 魔道具は魔道具でいろんな効果を持っている。魔力を増強したり、魔法効果を増大したりと色々だ。ごく稀に、付けている間、自分に新しい属性を付与する魔道具というものもある。


 冒険者稼業をやるなら魔剣も捨てがたい。魔剣は魔法が付与された剣で、魔力を注ぎ、簡単な詠唱だけで強力な魔法が使える優れものだ。


 でもそうか魔法書。魔法書があったか。図書館では見つけられなかったけど、音属性の魔法書がまだある可能性は全然ある。今の魔法書を見つけて満足していたから、魔法書という選択肢を無意識に除外していた。

 


「うーーーん、色々悩んだんですけど、魔法書ってお願いできますか?」


「ほう? 何属性の魔法書がお望みかな? わしの手にかかれば四大属性だけではなく、それ以外の希少属性の魔法書も用意出来るぞ。まあ、希少属性は属性によってピンキリじゃが」


「本当ですか!? じゃあ、音属性の魔法書をお願いします!!」


 音属性と聞き、エレノアの眉がピクリと動く。


「音属性……。なるほど、お主希少属性の中でも一層珍しい属性を発現させたのか」


「やっぱり音属性って珍しいんですね……。というか、さっきから希少属性って言ってますけど、それは?」


「今はこう言わんのか。今風に言うとハズレ属性じゃな。わしの時代は希少属性と呼んでいたが、いつの間にかああいう呼び方になっていたのう。わしは嫌いじゃから、ぜってー言わんが」


 ハズレ属性って昔は希少属性って呼んでいたのか。魔法の歴史については人並みかそれ以上には詳しい自信あるけど、そんな記述どの書物にもなかったぞ?


 なら、呼び方が変遷したのは歴史に載らないほど最近のことなんだろうか? それとも昔とか地域特有とか……考えれば考えるほど分からなくなる。


「音属性か……。あまり期待はせんでくれ。雷とか毒ならまだしも、音属性は余りにも希少すぎて用意できるかは確約できん。ああ言った手前だが」


「むむむむ……。大図書館でも偶然一冊見つけられたんですけど、やっぱり少ないんですね音属性」


「発現者の絶対数がいないからのお。四大属性が幅を利かせているのは、発現者が多いからじゃ。発現者が多ければ多いほど、魔法書に自分の研究した魔法を遺せば金になる。多くの人が読むからな。しかし、発現者が少ないと」


「お金にならないから、遺す人は限られてしまうということですか?」


「その通り。だからまあ期待せずに待ってくれ。わしも可能な限り、魔法書を見つけられるよう努力しよう」


 音属性の魔法書を手に入れること。それが難しいことを改めて知る。


 大図書館で音属性の魔法書を手に入れた僕は相当運が良かったのだろう。


「なるべくで大丈夫です。お願いします」


「おう任せておけ。わしは早速魔法書を探すから、これでお開きとしよう。受付で討伐報酬だけ貰っていけ。用意させてある」


 エレノアはそういいながら立ち上がる。


 そうか。トレイン討伐に参加すると、討伐した魔物の数に応じて報酬が貰えるって、何かの本で読んだことがある。


「それじゃ、お主には期待しておるぞ。また進展があればこちらから連絡するから、待っておれ」


「はい! よろしくお願いします!!」


 僕はエレノアに頭を下げて、受付へと向かう。

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