第1話「決断」

 Side 天野 猛


 レヴァイザーとして戦えるようになったのはいいが、どうすればいいのか猛には分からない。


 特にデザイアメダルの出所なんて検討もつかない。


 調べ出してメダルをばら撒いている人間を見つけてどうしたいのかも分からない。


 ただ惰性でデザイアメダルの怪人と戦っている感じだ。


 どうすればいいのか学園のラウンジで一人悩んでいると――


「最近一人なんですね猛君は」


「志郎君」


 天村 志郎。

 金髪碧眼の美少年。

 

 天村財閥の御曹司であり、政財界はもちろん父親が天照学園の理事長でもある。

 それだけでなく成績優秀通り越して科学者としても優秀である。


 一種の完璧超人である。


「そう言う志郎さんだって舞さんとは?」


「舞さんも舞さんで色々とありましたからね――」


 基本、天村 志郎は揚羽 舞と言う少女と一緒にいる事が多いが最近は別行動らしい。

 本人曰く「デザイアメダル絡みの事件で悲劇的な体験をしたらしい」とのことだ。


「単刀直入に言いましょう。僕と協力する気はありませんか?」


 協力とはデザイアメダルの事件の解決のために協力するとのことだ。


 と言うのも今回の一連の事件、内通者の存在も疑われていて大人に全部丸投げすればいいとはいかないらしい。


 なので志郎のような、少年までもが動かないといけない事態に発展しているのだとか。


「うん。いいよ」


 猛は了承した。


「まだ元気には程遠いようですね。本当に元気なら特撮トークで何時間か軽く潰せるぐらいには――」


「そ、そうだね」


 志郎が言う通り、天野 猛は特撮トークに火が付くと何時間か潰して喋り倒す悪癖があるのだ。

 

 天野 猛をよく知る人間からすれば有名な話である。


 それが最近、鳴りを潜めていると言う事はつまり、精神的に本調子ではないと言う事だ。


 付き合いの深い志郎はその辺よく理解していた。


「猛さん――その返事、待っていただけませんか?」


「春歌ちゃん――」


 ふと、待ち構えていたかのように猛の幼馴染、城咲 春歌が現れた。

 何時にもなく真剣な面持ちだ。



 志郎には席を外してもらい、猛と春歌は海が見える海岸で二人きりになった。


「どうしても――ヒーローとして戦うつもりですか?」


「うん」


「猛さんが戦わなくてもいい筈です。他にもヒーローはいるんです。それでもですか?」

 

「うん」


 猛は答えを変えずにこう続けた。


「このままだと――ダメだから」


「直人君の事ですか?」


「それもあるけど、ダメなんだ。だから今は戦い続けるよ。レヴァイザーとして」


「もしも――私がそれでもイヤだと言ったら?」


 戸惑う猛。

 少しの間を開けてこう尋ねた。


「理由を聞かせて貰える?」


「猛さんに苦しんで欲しくない。傷ついて欲しくない」


「それは僕もだよ」


「それは――」


「過去は変えられない。だけど未来は選択できる。なら僕はどうするかなんて決まっている。春歌ちゃんに苦しんで欲しくない、傷ついて欲しくない」


 猛は「でも」とこう続けた。


「でも、春歌ちゃんの意思を尊重したい」


「言ってる事が矛盾しているようにも感じますけど――」


「だね。僕がこのまま戦い続けると言っても、春歌ちゃんなら力尽くで止めると思うから」


「……志郎さんから聞いたんですか?」


「ううん、なんとなくそう思ったから」


「分かりました」


 そう聞いて春歌は変身する。

 桜色の美少女戦士然、メタルヒロイン然としたスカートにグローブ、長ブーツを履いたレヴァイザー。

 赤いラインが入ったハンカチのような生地を羽飾りのように付けている。

 肌の露出は暗いピンクのようなアンダースーツで覆われている。

 口元が露わになっていて、春歌の黒髪がヘルメットから露出していた。


「こうなるんだね」


 猛も変身する。


「予想してたんですか?」


『僕が春歌ちゃんの立場ならそうするから』

      

「ッ!!」


 そして春歌が攻撃してくる。

 鍛えたのだろうか素人のような攻撃はして来ない。

 鋭い攻撃が飛んでくる。

 猛は攻撃してこない。


「どうして攻撃してこないんですか!?」


『戦う意味はないから』


「ならこのまま変身アイテムを破壊させてもらいます!」 


 春歌の攻撃がより苛烈に。

 より激しくなってくる。

 それでも猛は一切反撃しなかった。


「はあ……はあ……」


 やがてずっと攻撃を続けていた春歌はその場に崩れ落ちる。


「やっぱり――猛さんですね……」


「春歌ちゃん」

 

「本当はこんな事したくはなかったです。でも――猛さんは絶対無茶して、危険な目に遭うのは分かっているから――」


『……ごめんなさい』


「謝らなくていいです。きっとこれは――正しい正解なんてありませんから」


 と、春歌は涙交じりに答えた。


『へへへへ、ついてるぜ。弱ったヒーローが二人も。片方は女ときた』


 そこへ二体の怪人が現れる。

 外観からしてメダルはクモ、コウモリ、ハチだろうか。

 

「猛さん――ここは私が――」


『大丈夫だよ。僕はもう、選択したから』


「けど、私との戦いでダメージが……」


 春歌の言う通り、幾ら防戦して上手く捌いていたとしてもダメージやスタミナの消費はある筈だ。

 そこに3体の怪人を相手するのは無茶なのではないかと思った。


 だが猛はこう返した。


『心配しないで。僕は、負けないから』


 そして猛は3体の怪人相手に向かっていった。



『こいつさっきまでやられっぱなしだった筈じゃないのか!?』


『どこにこんな力が!?』


『おい、しっかりしろ!!』


 猛は3体の怪人の猛攻を上手く捌きながら着実にダメージを与えていた。


『これならどうだ!!』


 クモの怪人が糸を口から吐き出し、コウモリの怪人が空中から超音波を出し、ハチの怪人が棘を飛ばしてくるが全て回避するが防戦一方になる。

 

 このままでは危ないと春歌は左腰のホルスターに指してある拳銃、ハートデリンジャーを抜いて戦いに参加しようとしたが――


「姿が――変わった?」


 レヴァイザーが緑色になり、手には玩具のような外観のデザインの銃が握られている。

 その姿を見て呆気に取られた。


 空高く跳躍し、次々と3体の怪人に緑色のエネルギー弾を撃ち込んでいく。

 

『なんだいきなり!?』


『姿が変わった!?』


『ど、どうにかしろ!!』


 地面に着地し、今度は赤色になる。

 手には赤い西洋剣が握られていた。

 クモ怪人の糸を炎を撒き散らしながら剣で振り払い、一気に距離を詰めて一閃。

 

『ば、バカな……』


 クモ怪人は爆発を引き起こして人間体に戻る。


『ひ、ひぃ!!』


『逃げろ!!』


 そして二体は逃走を図った。

 追い掛けようとしたが志郎から『奴達を餌にします。逃してください』と通信が入る。

 

 どうやら志郎は志郎で裏でメダルをばら撒いている連中を炙り出す腹積もりらしい。


 猛は変身を解除した。



 それから猛と春歌はと言うと――


「ごめんなさい――私――私――本当は分かっていたのに――」


「うん、分かってるから――もう泣かないで――」


 猛はずっと泣きっぱなしの春歌をあやしていた。

 

 春歌も色々と無理していたし、限界だったのかもしれない。


 これからどうなるかなんて分からないが、春歌と一緒に歩んでいこうと思った。

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