第28話『色で判断するなァ~~~!!』

「これのどこがふわとろオムライスなんだ!」

「アンタが横から口出ししてくるから失敗したんでしょ!」


 思い描いていた理想のオムライス像とは遠くかけ離れた一品が完成し、俺たちはバチバチと火花が出るほど睨み合っていた。


「せっかくソーセージ入れたのに台無しじゃない!」

「ソーセージは見た目に貢献してねぇよ!」


 しばし言い合いを続けてから完成したオムライスに視線を落とせば自然とため息が漏れた。


 なんで茶色いんだ、この卵……。やっぱり固形のスクランブルエッグだし。

 心なしか、皿から負のオーラが漂っている気がする。


 はぁ、今からこれを食うのか……。

 隣で悠里も同じことを思っているのか、不安そうな顔をしていた。


「ま、まあ見た目はともかく、味は大丈夫だろ。特に変なものは入れてないし」

「そ、そうね。ソーセージ入れたし」

 なにそのソーセージに対する絶対的な信頼……。


 でも、たしかにソーセージは美味い。だから普通に考えてこのオムライスも美味いに決まっているじゃないか。そう自己暗示をかけながら皿をリビングに運ぶ。。


 座卓に皿を置いて先に腰を下ろすと、悠里が遅れて皿を持ってきた。

 なにやら片手には白色の缶を持っている。


「ちょ、お前それ……」

「なによ、悪い? ちゃんと成人してるんですけど」

「いや、そういう問題じゃなくてだな……」


 悠里はオムライスに手を付ける前にプシュッと缶チューハイを開け、ゴクゴクと喉を鳴らした。プハーッと、幸せそうな顔をする姉にジト目を向ける。


「お前、マジで泊まる気満々じゃねぇか……」

「お酒に酔ったか弱い女の子を外に追い出すなんて人でなしだと思わない?」

「お前のどこがか弱いんだよ」


 だがコイツの言う通り、現在進行形でストーカー被害に遭っているコイツをこのまま追い出すわけにもいかない。

 俺は半ば諦めて、深くため息を吐いた。


「……あんまり長居するなよ」

「うむ。物分かりのいい弟で助かるわ」


 ニッと笑みを浮かべる悠里は風呂上がりでメイクが落ちたからか、あどけない印象だった。


 それにしても、俺が実家にいた時はコイツもまだ未成年だったから。こうして酒を飲んでいる姿を初めて見た。なんというか普段よりも遠い存在のように感じてしまう。


 俺はオムライスに視線を落とし、手を合わせた後。スプーンでオムライスをすくい上げた。


 ――いざ、実食!


 おそるおそるオムライスを口に運ぶ。


「うん。不味い」


 知ってたけど……。

 だが、悠里は知らなかったみたいだ。


「えぇー、嘘でしょ⁉ ソーセージ入れたのに……⁉」

「しょっぱいわ! 食感もベチャベチャだし‼」


 悠里は納得のいかないような顔をしながらオムライスを一口頬張る。

「うぇー、なにこれ……」

「絶対、お前が隠し味にコーヒーの粉なんて入れたからだろ」

「はぁ? コクが出て美味しくなるでしょ! それよりアンタがキムチなんて入れたのが悪いんじゃないの? ていうか、いつのキムチなのよ!」

「いやいや、キムチ入れたら大体美味くなるだろ! チキンライスと同じ色だし」

「色で判断するなァ~~~‼」

「お前こそ、そろそろ味見を覚えろよッ‼」


 互いに座卓に身を乗り出してバチバチと睨み合っていた時。

 ピンポーン、とインターホンが鳴る。


「や、やば。お隣さんかも。お前が騒ぐから……」

「あたしのせい⁉ アンタが叫んだからでしょ?」

「あぁ~?」

「なによ?」


 額をこすり合わせる勢いで睨み合っていると、再び玄関から電子音が鳴り響いた。


 俺は慌てて玄関に向かう。その後、お隣さんに注意されて散々な目に遭ったが、こんなに賑やかな食卓を囲んだのはいつぶりだっただろうか。


 ふと昔の――両親の帰りが遅く、姉と二人で過ごした水曜日の晩を思い出した。

 まあ、あの頃とは違って今は喧嘩ばっかりなんだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る