第14話『……アレ、俺なにしに来たんだっけ?』

 無情にも作戦は失敗に終わってしまったが、俺が考えてきた作戦はなにもこれだけじゃない。というわけで、気を取り直してさんに移ろう。


「なんか、コーヒーカップって懐かしい感じがするねっ!」

 隣を歩く悠里がにこやかに言った。


 俺たちが次にやって来たアトラクションはコーヒーカップだ。

 カップの形をした乗り物に乗って、ひたすらクルクル回るだけのアトラクションである。

 これこそ子供向けアトラクションの代表格だと思われがちだが、案外大人でも童心にかえって楽しめるとネットのレビューに書いていた。


 家族連れが多く見られるものの、カップルの姿もちらほらと見受けられる。


 ここでの作戦はこうだ。ちまたではコーヒーカップを一緒に回すことを共同作業と言うらしいのだが(ラノベに書いてた)、嫌いな相手と共同作業なんてさせられたらそれはそれは屈辱的なことだろう。それにカップルや家族連れに囲まれていたら嫌でも意識させられるはずだ。


 ――名付けて、『ターンスピンローリング・コラボレーション』だ。


 この作戦で、姉に屈辱を与えてやろうと思っていたのだが……。

「ウワアアアアアアアアア――」

「回レ回レ~~~っ!」

「やめてぇえええ~~~! ゲェー出ちゃうぅうううう~~~ッ!」

 悠里が大人げなくはしゃいだせいで、作戦は失敗に終わってしまった。


 つ、次の作戦だ……。




 朝食に食べたクッキーをすべてリバースしてげっそりした俺と、強靭な三半規管の持ち主である悠里が次にやって来たアトラクションはゴーカートだった。


 小型自動車に乗って、全長六〇〇メートルのコースを走るアトラクションである。

 このアトラクションには比較的多くの家族連れが見受けられた。


 そこで俺が考えてきた作戦よんの内容は、レースで負けず嫌いな姉に大差をつけて勝利すること。それだけだ。こんな簡単なことでも充分な効果が見込めるだろう。


 アイツの負けず嫌いは筋金入りだ。テコンドーの試合ではもちろんのこと。小さい頃にゲームセンターのクレーンゲームで熱くなり、全財産をつぎ込んだ末になにも取れず一晩中泣いていたことがあるくらいだ。


 家族連れが多くいるこの場所で、ゴスロリ衣装を着せられ、実の弟に妹を演じさせられ、さらにレースでボロ負けするという屈辱を植え付けやるのだ。


 ――名付けて、『屈辱の三連単』。


 大丈夫、レースでなら勝てる。昔からマ〇オカートは得意なのだ。


「うおおおおおおおおお」

「おりゃあああああああ」


「負けてたまるかァあああッ!」

「あたしだってぇええええっ!」


 レースは思っていた以上に白熱し、俺たちはほとんど同時にゴールラインを超えた。


「やったぁ! あたしの勝ちねっ!」

「はァ? 俺の方が早かっただろうが!」

「なに言ってんの? どう見てもあたしの方が先にゴールしたじゃない」

「いやいや、お前の目は節穴か? 俺の方がこぶし一個分早かったっつーの」

「なによ、やるの?」

「上等じゃないか。あのアトラクションで決着をつけよう!」




 そして次にやって来たのはウォーターショット。


 水鉄砲で的を狙って、ポイントを競い合うアトラクションだ。ポイントに応じて豪華な景品がもらえるらしく、子供たちに人気があった。


「はははッ、この勝負は俺に分があるようだな!」

「な、なんで当たんないのこれ⁉ もう、こうなったら……」

「あ、おい! 二丁使うのは卑怯だぞ!」

「アハハハ、あたしに勝とうなんて百年早いのよっ!」


 二丁拳銃で的に向かってグミ撃ちする悠里がグングンとポイントを伸ばし、いつの間にか大差をつけられていた。そのまま数で押し切られて敗北してしまう。


「あたしの勝ちだねっ!」

「いや、反則負けだろ」


 結果として、悠里のポイントは反則行為で無効となり、地道にポイントを稼いでいた俺が勝利した。景品として動物のマスコットキャラクターのストラップをもらった。


 勝った……。ついに勝ったぞッ! 俺は姉に勝ったんだァあああ!


「うおおおおおおおおお‼」




 ……アレ、俺なにしに来たんだっけ?

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