第3話『俺の前で『妹』を演じてみろよ、姉さん?』
そして時は現在へと舞い戻る――。
実の姉である小森悠里とは約七ヵ月ぶりのエンカウントだった。
俺は座卓の向かい側で正座するツインテールの姉を、同じ姿勢のまま
ソワソワと居心地が悪そうに身をよじる姉の姿に思わず共感してしまう。こちらとしても非常に居たたまれない気分だったのだ。
いや、ていうかなんでコイツがウチにいるんだよ……?
ああそうだ。たしか、我が聖域にこんな邪悪なデビルを入れてやるつもりなどなかったのだが、お隣さんが帰ってきたのが見えて思わず中に入れてしまったんだった。にしても、なんで妹代行サービスを頼んだらコイツが来るんだよ。意味わかんねぇ……。
俺の情緒は精神が破壊されるレベルでぐちゃぐちゃだった。
夢にまで見た妹が、ようやく我が家にやって来るんだ! ってドキドキワクワクしてたのに一瞬のうちに地獄のどん底まで突き落とされたのだ。
無理、もう立ち直れない。どこかに
俺が頭を抱えて絶望に打ちひしがれていると、今まで黙りこくっていた悠里が眉をひそめ、ぞんざいな口調を投げかけてきた。
「一万五千円だして」
「は?」
「帰るから早く代金よこしなさいよ」
「ふざけんなッ、むしろこんな不良品をよこした店の方に
「なんですって……」
「なんだよ……」
互いに座卓に身を乗り出し、バチバチと睨み合う。
しばし視線をぶつけ合った後、磁石が反発するみたいに同時に顔をそむけた。
最悪の日だ……。よりによってコイツを呼び寄せてしまうなんて。仮にタダでもこんなヤツの妹すがたなんて見たくないね。鳥肌で皮膚が裂けちまいそうだ……。
もはや、自分の運の悪さすら呪っていたそのとき。ふと妙案が降りてきた。
――待てよ。逆に言えば、これはあの傲慢な姉に一矢報いるチャンスなんじゃないか……?
「ふっ」と、思わず笑みを漏らすと悠里がむすっとしながら睨み付けてくる。
「なに? 気持ち悪いんだけど……」
「いや、別に?」
「ふんっ、勝手に妄想に浸ってなさいよ。あたしは帰るから」
そう吐き捨てると、悠里はバンッとテーブルを叩いて立ち上がり、不機嫌な足取りで玄関の方へ歩いていく。その背中に向けて、俺は最大限の皮肉を込めた
「いいのか? もしかしたらうっかり口が滑って、このことを母さんに話しちゃうかもなー」
「……アンタ、どういうつもりよ」
足を止めた悠里が軽蔑するような強い眼差しを向けてくる。
その視線を真っ向から受けて、俺はにへらっと軽薄な笑みを浮かべた。
「どうせお前、母さんに黙ってこんなことしてんだろ?」
わずかに顔をしかめた悠里を見て確信に変わる。
やはりそうだ。あの心配性な母親がこんな見るからに怪しい仕事を認めるとは思えない。
俺は勝利を確信し、口の端を吊り上げた。
「バラされたくなかったら俺の前で『妹』を演じてみろよ、姉さん?」
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