短編集 黒

owl

第1話手紙


ポストに手紙が来ていた。

兄からの手紙だった。



庭の鉢植えに水をやってほしい、との事だった。

庭に出て、ホースで水をやりながら考える。


思い出していた。土を小さなスコップで無理矢理掘り起こしたときの感触。柄の部分に水が入って、ちゃぷちゃぷと音を立てていた事。あの時は、雨が降っていた。雨が、降っていた。


無計画に開けた穴は小さくて、はじっこがはみ出していた。少し脚が動いていた。

でも、それは気のせいだと思うことにした。適当に土を被せて、その場を後にした。


どうせ死ぬ。

殺したのは、あいつ。

あの時の私はただ、面倒なことに巻き込まれないために、処分しただけだ。




ぐらり、と意識が傾いたような気がして、目をぎゅっと閉じたり開けたりした。まだ大丈夫なんだろうか。もう、駄目なんだろうか。

いつなら、大丈夫だったんだろうか。いつから、駄目になったんだろうか。

水滴を弾く葉っぱは、夏の朝日を浴びてきらきらと輝いていた、どうしてだろう?どうして今かがやくんだろうか。いつから、輝いていたんだろうか。もとから、輝いていたのだろうか。


あれが見つかったところで、ただの動物の死骸として処分されるだけ。


ふと、鉢植えの表面に根っこがはみ出ている事に気がついた。

放ったらかしだったので、根っこが中で詰まっているのだろう。


水分を得た土表は、どろりと溶けて、今にも溢れだしそうだった。

どうしてだろう。その中から、あの時の脚が突きだしている。ふらふらと宙を掻いているようだ。


なぜ今なのだろう。どうしていまなのだろう?

あの手紙が来たからだろうか。兄さんは、私が遺体を埋めたことを知っていたのだろうか。


だから、



ぐらり、と再び世界が傾いた。もうそのまま

戻らなくなってしまうのだろうか、と観念した頃に、


目の前の脚は姿を消していた。


きらり、きらりと光ながら落ちていくしずくを見ていた。どうして輝くのだろうか。どうして今輝くのだろうか?

私の世界はもう終わってしまっているのに。

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